(2013年2月1日掲載)
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福島県立医科大学 歯科口腔外科
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歯科口腔外科とは
なぜ一般歯科治療ではなく、更に治療領域の広い口腔外科を選ばれたのでしょうか?
海外では歯科医師と医師のダブルライセンスが必要な国もあり、両方において幅広い知識が必要とされているようですが?
確かに口腔外科は医者に割と近い要素はあると思います。口腔外科は一般歯科とは違って、入院中の患者さんの全身管理、抗がん剤・麻薬の扱いなども含まれ てきます。小児歯科から口腔外科へ進む人って恐らくそんなにいないと思うんですよ。だからなおさらですが、口腔外科に進んでみて感じたのは、「歯科医とい うよりはむしろ医者みたいだな」ということでした。歯科から歯科に行ったんですけど、まるで転職したくらい違うと思いましたね。歯を削るということは結局 は外科的処置ですし、全身管理の最低限の知識は必要だと思うので、確かに海外でダブルライセンスが必要な国があるというのは納得ですね。「耳鼻科」とか 「皮膚科」と同じように、「医学部歯学科」があった方がいいんじゃないかと思います。
歯科と医科の協力関係について
医科や周辺地域の医療機関などとはどのような協力関係を構築されているのでしょうか?
病院内の連携としては、透析室との連携が一番多いですね。透析されている人の中には、自己管理が難しい人、あるいは「自分は血をサラサラにする薬を飲ん でいるから」、「歯医者に行ってもどうせ診てもらえないから…」と、治療を諦めてしまっている人が少なくないように思います。
また、糖尿病の患者さんもよく受診されます。糖尿病を持っていると普通の人よりも症状が重症化しやすいので、より注意が必要なのですが、「歯医者は痛く なったら行けばいいだろう」という風潮があるように思います。そのあたりの意識改革というか啓蒙活動は今後の課題だと思います。
受診患者さんの多い診療内容について
他の地域に比べて入れ歯が多いとのことですが?
歯周病のリスクは人それぞれ
それから歯周病ですね。歯周病になる原因というのは、歯磨きなどのお手入れの仕方のほかに、遺伝的なものなどいろいろあると思います。誰でも口の中にはか なりの数の細菌がいるのですが、その種類にはとても個人差があるんです。たとえば虫歯菌が多くても、歯周病菌が少ないというような人は、ひどい虫歯がある にもかかわらず、歯そのものはグラグラせずにしっかりしていたりします。逆に虫歯菌は少ないけど歯周病菌が多い人は、虫歯もなく見た目も真っ白なのに、歯 がグラグラしていたりするんですね。その人によって全くリスクが違うので、自分のリスク傾向を知ることが大切だと思います。
顎関節症について
あごが鳴るとか痛いとか口が大きく開けないとか、いわゆる顎関節症の方もよくいらっしゃいます。原因はいくつかありますが、左右どちらかに偏って噛む癖 があったり、吹奏楽をやっている方のように口をしょっちゅう使ったり、ストレスが原因だったり、本当にさまざまなんです。実は僕自身も顎関節症なんですけ ど、歯を削ったり抜いたり何かに集中している時、知らず知らずに奥歯に力が入ってしまうんです。歯を削っている時にグッと奥歯がきしんで、自分の音にびっ くりすることもしばしばです。口が開かなくなった経験がある人などは、顎関節症になりやすい要素を持っています。完治というのはなかなかないので、今後も 起こる可能性があるものだと思っていただいて、ある程度は顎関節症と付き合っていかないといけないのかもしれません。
口腔外科医になって良かった点
元々第1志望ではなかった分野ですが、結果として良かったと思います。医大での2年間というのは、いわゆる普通の歯医者の治療というものをしなかったん ですよ。大学の方からは、「ここでは外科だけやりなさい」という風に言われていましたから。ひたすら親不知(おやしらず)を抜いたり、入院患者さんの管理 や当直などをしていました。小児歯科だけやって、普通の歯医者さんになるよりは、だいぶいい経験ができたなと思いますね。歯科と標榜できるのは一般歯科、 口腔外科、小児歯科、矯正歯科です。その中の2つを経験した訳ですが、こういう経歴をたどる人はあまりいないと思うので、意図せず人にはない経験ができた かなという意味でも、口腔外科医になってよかったなと思います。
小児歯科は歯医者さんの入り口
あまり重要視されてないところなんですが、「子供はどうせ大人の歯が生えて来るからいいでしょ?」と、ついつい子供の歯の治療を軽視する傾向があるように 思います。でも実は子供の歯のケアというのはとても重要なんです。小児歯科は今後の人生で幾度となくお世話になるであろう歯医者さんの入り口です。そこで 辛い思いをして嫌悪感を植えつけられてしまうと嫌ですよね。乳歯の時期に虫歯がある人は、やはり大人になってもあります。今の歯科界全体の流れから言って も、できてしまった虫歯の治療というよりは、虫歯になりにくい口内環境作りへという流れになってきています。歯医者さんに行く目的は治療ではなくてあくま で定期点検のために、ということを子供の時から意識づけしておけば、そこまで嫌がる場所にはならないと思うんです。定期的に歯医者さんに行って、虫歯が大 きくなる前に治しておくということが大事だと考えます。
診療の中ではどんなことを心がけていらっしゃいますか?
治療が終わった後に、患者さんに「来てよかったな」と思ってもらいたいですね。できる限り患者さんの希望にそえる治療にしたいと思っています。僕は結構 患者さんと話す時間が長いんです。患者さんに、「あなたの歯はこういう状態です」「こういう選択肢があります」「この治療はこういう良いところと悪いとこ ろがありますけどどうしますか?」という具合に、こちらから一方的にではなく、あくまで患者さんに選択肢を与えながら治療をすることを心がけています。自 分で選んだ治療法なら患者さんも納得いきますよね。例えば抜歯ひとつにしても、「この歯は駄目だから抜きましょう」という言い方だと、「あそこで歯を抜か れた」という表現をされてしまいます。でも、「この歯はこういう状態ですけど、どうしますか」ときちんと説明して患者さんと相談して納得の上だと「あの歯 医者さんで抜いてもらった」と言うんですよ。この差は大きいと思うんですよね。だから治療の際には同意をいただいてからやるようにしています。小児歯科で 学んだことですが、子供が治療の時に泣くのは、痛みのせいではなくてほとんどの場合怖くて泣いているんです。もちろん大人は泣いたりしませんけど我慢して います。恐らく大人だって根本は同じで、痛いのはもちろん嫌だし、「何されるかわからない」という不安の方が大きいと思うんです。だからそういう患者さん の不安を少しでも解消できるように、納得いくような治療をしようと心がけています。コミュニケーションは心がけひとつで誰でもできるので、そういうことを 大切にしていますね。
床屋みたいな感覚で気軽に受診してほしい
髪が伸びたら、床屋には何の抵抗もなく行きますよね。床屋に行くような感覚で、「歯石とか歯垢とか溜まってきたし、半年経ったから行こうかな」という感 じで通うところと考えてもらえればと思います。そうは言っても、一般的には歯医者には歯が痛くなければなるべく行きたくないですよね。確かにそうですよ ね。やはり誰でも自分の口に他人の手を入れられるのは嫌なんですよ。「別に歯がなくても死ぬわけじゃない」と思いたくなる気持ちも良く分かります。歯医者 でありながら、僕自身も歯医者嫌いだから、歯を削られたくない、抜かれたくないという気持ちはよくわかります。もったいないから削るのは嫌いなんですよ。 だからやむを得ずに削ったり抜いたりする時は、患者さんに選んでもらうようにしています。まずは患者さんとの信頼関係を築くことが大切ですよね。痛みは脳 で感じていますから、気持ちの持ち方によっても痛さに差が出てくると思うんです。同じ事をするなら、なるべく痛みの程度を小さくしてあげたいと思います。 患者さん自身に、「自分が選んでしてもらっている事なんだから我慢しよう」と納得してもらえればいいなと思いますね。そして今まで「行きたくないな」とた めらっていた歯医者に対しても、「たいしたことないな」と感じてもらえればと思いますね。「痛いから行く」のではなくて、「痛い思いをしないために行く」 という意識づけというか、啓蒙活動のようなことをやっていきたいと考えているんですよ。多くの人にそういう意識を持ってもらいたいし、歯医者に対しての垣 根を低くして、気軽に行けるようにしてあげるのも僕たちの仕事のひとつかなと思っています。
休日はどのように過ごされていますか?
休日は体を動かしていることが多いです。スポーツは以前から好きで、学生の時からずっと野球とテニスをしていました。有隣病院にも野球チームがあるの で、チームに混ぜてもらってやっています。それと、自宅の近くでは早朝テニスのサークルにも所属していて、月に2・3回はテニスを楽しんでいます。朝早く からテニスをしたあとは、子供達を連れてどこかへお出かけすることが多いですね。親の仕事が忙しかったので、自分が子供の頃には家族で出かける機会があま り多くありませんでした。ですので、自分が家族を持ったらできるだけ色んなところへ連れて行こうと、昔から思っていたんですが、今その夢を叶えてる感じで す。どちらかというと、自分が子供に遊んでもらっている感じですけどね。それから読書も好きです。特にこれといった愛読書はないですけど、一般書とか自己 啓発的なものがどちらかというと好きですね。歯科の本ももちろん大事ですが、仕事と直接的には関係ない本も結構参考になることがあるので、色んな分野の本 を読むようにしています。医科もサービス業だと思っていますから、例えば経営者目線の本も読みますし、「どうしたら患者さんに満足してもらえるか」という ところも学んだり、参考にしたりしています。
患者さんに感謝される歯医者さんを目指して
口腔外科を偉そうに語るにも、口腔外科医と名乗るにも、本当にまだまだ経験が浅くてベテランの先生方に失礼だと思っているくらいなんですが、僕なりにで きることをしていきたいですね。一番は、床屋感覚の気軽さで来てもらえるように、歯医者さんの垣根を下げるということをしていきたいです。繰り返しになり ますが、歯医者さんには虫歯になってからではなくて、虫歯になる前に行くところという意識づけをしていきたいです。僕が毎日みなさんのお宅を1軒1軒ま わって、歯磨きの指導ができれば理想だと思うのですが、現実的にはそういう訳にはいかないので、何か機会があればそういう啓蒙活動みたいことをやりたいで すね。もっとこの地域の虫歯を減らして、患者さんに感謝される歯医者さんになることを目指しています。
※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。
プロフィール
木島 寛 氏 (きじま ひろし)
出 身
福島県郡山市
専門分野
歯科口腔外科、小児歯科
資 格 等
歯学博士
日本小児歯科学会専門医
所属学会
日本口腔外科学会
日本小児歯科学会
経 歴
新潟大学歯学部卒業
新潟大学小児歯科学講座 大学院
福島県立医科大学 歯科口腔外科 勤務
医療法人 昨雲会 飯塚病院附属有隣病院 勤務
医療法人昨雲会
喜多方市松山町村松北原3634-1
飯塚病院 TEL:0241-24-3421
有隣病院 TEL:0241-24-5021
URL:医療法人昨雲会ホームページ