情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2013年3月1日掲載)

一般財団法人 温知会 会津中央病院 院長 武市 和之 氏


会津中央病院は年間を通して無休体制で高度集中治療を行っている。救命救急センターを持ち、会津医療圏の災害拠点病院としても大きな役割を担っている。

会津中央病院は手掛けている分娩の件数も非常に多く、いわゆる「里帰り出産」の受入れ体制は手厚く、制限することなく全ての里帰り分娩を引き受けるという。「どんな患者さんも受け入れるのが私の生き方」と力強く語る、産婦人科の武市和之院長にお話を伺うことができた。


産婦人科について
妊娠・分娩には異常、合併症、感染症などさまざまなリスクがあると思いますが、よく見られるケースにはどのようなものがあるのでしょうか?

 異常というほどのものは通常ほとんど見られなくて、だいたいが正常分娩です。しいて言えば切迫早産、流産、早産、それと帝王切開はありますね。最近だと、甲状腺の異常による合併症が見られたりします。甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる甲状腺機能不全や、逆に甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になる甲状腺機能亢進症などです。その他の合併症として、糖尿病の方が妊娠するケース(糖尿病合併妊娠)や、子宮筋腫や卵巣のう腫がある方の妊娠(子宮筋腫の合併妊娠、卵巣のう腫の合併妊娠)といったものが挙げられます。これらの合併症が見られた場合、妊娠を継続していくのかどうか、手術をするのか、手術しないで経過をみるのかというように様々な選択肢が出てきます。
 流産や早産に関しては、紹介による患者さんも多いですね。会津若松市内に限らず、近隣の喜多方市や会津坂下町、まれに南会津の助産所からの紹介などもあります。会津中央病院では原則としては制限なく、どんな状態の患者さんでも受けるようにしています。以前は福島県内でも、里帰り分娩を制限したり拒否したりといった地域がありましたが、会津中央病院は今までずっと里帰り分娩OKの方針でやってきています。自分の地元あるいは実のお母さんの元でお産をするということは、赤ちゃんのおしめ替えや洗濯など、身のまわりの世話をしてもらえてご本人はゆっくり休養出来るから、精神的にもいいですよね。

そのように「全て引き受けます」と言っていただけると、妊婦さんたちもかなり心強いですね。
 それが私の生き方ですから、全部受けますよ。ただし全て受けるからには、一方的に医者に甘えてばかりではだめで、患者さんには患者さんの義務というのも果たしていただきたいと思うんです。今まで診てもらっていた病院から、今までの状況について病院から紹介状をもらってくるとか、34週目までには里帰りするとか、そういうことですよね。それから妊娠半ば頃、一度来ていただければなお良いですね。東日本大震災が発生した際も、会津中央病院の方針としては外科だろうが救命だろうが、被災地からの患者さんは全部受けると決めました。震災後は、帰る家がないというケースもありましたから、通常のお産では1週間で退院させるところを、1ヶ月間病棟に入院させたり、何らかの補助をしてもらえないか県に交渉したり、そういうことを色々やって最低限の金額で入院できるよう、患者さん達をサポートしてきました。そういう風に震災直後からやってきましたから、被災した里帰り出産の人たちからは、お産のお礼もいっぱいいただいていますよ。こういう風に感謝されると仕事はより楽しいですよね。ここは365日24時間、検査室も手術室も動いています。麻酔科のドクターも4人いて、何があっても動ける体制になっています。だから医者のやる気さえあれば、制限なんてしなくても全然怖くはないですね。

女性特有の病気について
先ほどお話のあった子宮筋腫は、成人女性の4人に1人、あるいは3人に1人という高い確率でかかると言われている一般的な病気ですが、子宮筋腫の治療法についてお聞かせ願えますか?

FUS(集束超音波治療装置)
 おっしゃる通り子宮筋腫は3分の1の女性がかかると言われていますけど、基本的には陽性腫なんです。だから特別、症状がない場合は経過観察でいいと思います。例えば、生理時の量が多くなって貧血になるとか、月経困難症になるとか、赤ちゃんが出来ないとか、頻尿があって圧迫症状が強いとか、そういう場合には治療の対象となりますね。症状がある人の治療の選択肢としては色々ありますね。会津中央病院では子宮筋腫治療のために、これまでの子宮動脈塞栓術(※1)に加え、FUS(集束超音波治療装置)(※2)という高度先進医療を取り入れています。他にも治療法としては、腹腔鏡下手術や開腹の筋腫核手術、それからTCR(子宮鏡下手術)など色々あります。子宮筋腫に関しては、症状や患者さんの要求に応じて、様々な選択肢に応える環境が出来ています。

新生児専門コースインストラクターについて
新生児蘇生法「専門」コースインストラクターでもある武市先生。具体的な内容についてお聞かせ願えますか?

 会津中央病院には私を含め2名の新生児専門コースインストラクターがいます。インストラクターであるということと、講習を受けて技術を持っていることとは別なんですが、要するに実際にお産に立ち会った際、その新生児蘇生術が出来ればいいんです。インストラクターというのは産婦人科の先生とか、新生児を担当している看護師、助産婦とか消防士といった免許のない方々に蘇生術を教えます。会津でもインストラクターが集まって新生児蘇生法講習会というものが開催されています。この勉強会はインストラクター1人では出来ないので、8人くらいのインストラクターが1チームとなって、マスクの使い方や挿管の仕方などを実際にやってもらうんです。私もそういう勉強会に呼ばれてお手伝いさせていただいています。

現在福島県内においては、放射線に関する様々な情報が氾濫していて、妊産婦の方々は特に不安を抱えていると思いますが、何かメッセージをいただけますか? 

 今のところ、確実なデータがありません。だからといって過剰反応することなく、普通通りに過ごしてもらうことの方が重要だと思いますね。妊婦さんが恐怖感や不安感を持って、ビクビクしすぎて過敏症になったりすることの方が逆に体には良くないです。リラックスして、お腹の赤ちゃんに不安感を伝えないことの方が妊婦さんの体にとっては絶対に良いんです。妊婦さんにとって、体と同様に精神的なケアをすることがとても大切になってきます。会津中央病院ではマタニティービクスやアフタービクスというものをやっていて、妊産婦の方々に利用してもらっています。ここにはスタジオがあって、土曜日なら一般の方でも見学できますよ。妊娠中はマタニティービクスという、有酸素運動で筋肉の筋を伸ばしてストレスを解消していますね。それからお産した後も、女性たちがそこに集まって楽しんだり、子供の悩みなんかも一人で悩まないで相談しあったりしていますね。単なる医療の提供だけでなく、妊婦さんたちにより快適な環境で過ごしてもらいたいと思っているんです。

武市先生は産婦人科医として、どういう時にやりがいを感じますか?

 医者としては、赤ちゃんが元気に産まれてきた時の妊婦さんの笑顔を見ることが一番楽しいですね。例えば夜中の4時に起きて、家を出て来ることもあるわけです。雪の中でも、眠くても関係なく。うちの女房がよく言うんですよ。「行く時はブツブツ言いながら出て行くけど、戻る時はニコニコしながら帰って来る」って。朝早く起きて来て、お産に立ち会って元気な子が産まれた時というのは、起きて来た甲斐がありますよ。お母さんが安心して、元気な子が出てきてニコニコしているのを見ると、苦労が吹き飛んでしまうんです。妊婦さんだけでなく、おじいちゃんおばあちゃん、それからご家族の方の喜ぶ姿を見るのが、やはりひとつの医者の楽しみでもありますね。夜中に起こされたり、食事中に呼び出されたり、何かを中断してお産に立ち会わなくてはならないことはしょっちゅうです。それでも、お産の時に感じる喜びの方が大きいですね。ただ逆も確かにあります。残念ながら、正常な状態でない子が産まれるケースももちろんありますから、その時のショックは大きいですね。
 何時から何時までではなくて、起きている時間は勤務時間と思ってやっています。物事は考え方だと思うんです。仕事を楽しむか楽しまないかだけ。楽しみを見出せれば、産科医というのもそんなに苦痛ではないです。一般的に産婦人科は厳しいと言われていますが、そんなことはないですよ。

産婦人科医を目指したきっかけについてお聞かせ願えますか?

 今は産婦人科という専門科でやっていますけど、前は婦人科と産科の2つをやっていました。産科ではお産独特の仕事があります。今は新生児がセパレートになっていて、そこに更に婦人科の外科の手術も入ってくること、赤ちゃんも診られること、そこに産科特有の仕事があること、そういう色々なファクターがあって、広くて面白いなと思って産婦人科を選びました。

産婦人科の今後の課題
 今産科医が特に少ないですね。どうしても都会に集中してしまっていると思います。やはりゆとりある仕事ができる産科の体制というのは、ウィークデイ(月曜日から金曜日)の当直なら1回、それから日曜・祝祭日の当直なら月1回。そういう体制が組めるような人員配置が出来れば、過剰労働とか、燃え尽き症候群とか、今産科医に問題になっているようなことはなくなるのではないかと思いますね。理想的な体制を確保するためには、最低5〜6人の医師は必要になってきます。ただ、現時点でそういう体制の医師数が確保出来るかどうかというと、東京以外だとなかなか難しいので、そういったところが今後の課題になってくるでしょうね。都会にあるような、医者が一極集中しているような所でなら、そういった体制も実現可能ですが、田舎では出来ないですから。

より良い医療は「奉仕の精神」の上に成り立っている

 少ない人数でもきちんとこなしている病院もありますよ。ただ、正直なところ、多少の無理の上に成り立っているものでもありますから、患者さん側から感謝の気持ちを表していただけると大変励みになりますね。受けて然るべきサービスとして受ける、当たり前のことではあるのですが、「当たり前のことをしてもらった」ではなくて、「きちんとやってもらって、元気になることが出来た」という感謝の気持ちが出てくれば、医療者側としてもやりがいを感じますよね。ごくまれにですが、「お金を払っているんだから、夜起きてくるのだって仕事として当たり前だろう」というような態度の患者さんもいらっしゃいます。今の風潮というか、昔より随分感じることがあります。それは残念な傾向だなとは思います。「思いやり」や「感謝」よりも、「当たり前」ということが強くなってしまうと、衝突が生まれたり「単なる事務的な医療と患者さんとのやり取り」といったビジネスライクな対応になってしまったりということになりかねません。医師も患者さんも結局は人と人ですからね。医療の世界において、「奉仕の精神」がない限り良い医療を提供することは出来ません。良い医療、つまり良い連携のとれたチーム医療です。医師、薬剤師、看護師、給食。このチーム医療がうまくまわると、安全安心な医療が出来ます。そこに優しさとか、丁寧さとか、患者さんを思いやる言葉とか、あとはちょっとしたサービスとか、そういったものがプラスされれば、より患者さんに喜ばれる医療が提供できます。こういうことがないと良い医療は成り立ちません。

先生は職員の方に対して、とても厳しいと伺っていますが。

 そう、職員には厳しいです。挨拶に関しては特に厳しいと思いますよ。職員は私のことを怖いと思っているかもしれません。例えば外来に行っても、挨拶しないと大変です。ただ挨拶が全ての基本だし、それが教育の基本だと思っていますから。

お休みの日は何をされていますか?
 趣味はいっぱいあります。人生は「よく遊べ、よく働け、よく学べ」というのが私の持論です。だからいっぱい仕事をしますが、そのかわりいっぱい遊びまわって、忙しくしてますね。日曜日もほとんど家にはいないくらいです。今一番やってるのはゴルフです。それと、囲碁クラブに入って囲碁の連中と遊んでますよ。それから車の運転や競輪も好きですよ。いつもフル活動してるから、人生、暇はないですね。

※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
武市 和之 氏  (たけいち かずゆき)

役  職: (2013年3月1日現在)
 一般財団法人 温知会
 会津中央病院 院長

卒業大学
 福島県立医科大学医学部卒業

資 格 等
 産婦人科専門医、母体保護法指定医、臨床研修指導医
 新生児蘇生法「専門」コースインストラクター

所属学会
 日本産婦人科学会、日本産婦人科医会

経  歴
 1972年 福島県立医科大学医学部卒業
 1979年 会津中央病院産婦人科部長
 1993年 会津中央病院副診療部長
 1997年 会津中央病院副院長
 2000年 会津中央病院病院長

一般財団法人 温知会 会津中央病院
 福島県会津若松市鶴賀町1番1号
 TEL:0242-25-1515
 URL:一般財団法人 温知会 会津中央病院







◆用語解説◆

※1 子宮動脈塞栓術

 足の付け根にある大腿動脈に局所麻酔を行い、その部位から細い管(カテーテル)を動脈内に挿入し、レントゲン透視下に子宮動脈に詰め物(塞栓)をして、血流を遮断することにより筋腫を縮小させる治療法。

※2 FUS集束超音波治療装置

 1本1本の微弱な超音波を束にして一点集中させ、一点焼灼するもので、皮膚を傷つけることなく子宮筋腫を治療することができる。メスや麻酔を使わないため、体への負担が極めて軽い。治療期間の目安は1日。ほとんどが日帰りまたは1泊入院による治療が可能。

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