(2013年10月1日掲載)
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公益財団法人星総合病院
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遺伝医療と認定遺伝カウンセラー
遺伝医療が注目されてきたなかどのような考えをお持ちでしょうか
認定遺伝カウンセラーの資格について、また目指されたきっかけを教えてください
認定遺伝カウンセラーは、平成17年からスタートした日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会という2つの学会が認定する資格です。日本人類遺伝学会は、遺伝医療界の中で一番大きな学会になります。この学会の理事長である福嶋義光先生は、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」作成にも携わった先生で、信州大学医学部 遺伝医学・予防医学講座教授兼信州大学医学部付属病院 遺伝子診療部の部長(小児科医)でもあります。私は、看護学生1年目のとき、福嶋義光先生が出演されていた、遺伝カウンセリングの仕事を紹介するテレビ番組を拝見するや否や、その場で、遺伝カウンセラーになろうと思いました。しかし、当時は、遺伝学の専門知識を持った医師による遺伝カウンセリングが行われており、日本には認定遺伝カウンセラーの養成過程はありませんでしたので、その養成課程ができるまで看護師の仕事をしていました。また、その当時の私には、日本の遺伝医療の中心は腫瘍(がん)遺伝領域ではなく、小児科領域、産科(周産期)領域、神経内科領域が中心だという認識がありました。このため、私は将来を考えて最初の勤務先に小児科を希望しました。しかし、残念ながら男性看護師を小児科や産科に配属していただける例は少なく呼吸器科に配属されました。そこで接する機会が多かったのが肺がんの患者さんでしたので、それから今日まで、腫瘍(がん)の患者さんを中心に関わることになりました。そうしているうちに、信州大学に念願の遺伝カウンセリングコースができ、憧れの福嶋義光先生の下で学ぶことになりました。
現在、東北・北海道地区の認定遺伝カウンセラーは合わせて5名で、福島県には私1人です。幸い私が勤める星総合病院は遺伝外来がありますが、まだ、ほとんどの病院には遺伝外来がないため、東北・北海道地区では、患者さんをサポートするための遺伝子診療体制がこれからの段階だと言えます。こうしたことから、私たち全国の認定遺伝カウンセラー同士が連携することで、遺伝子診療の普及・啓発に繋がるようなシステムを作ることも必要だと思っています。認定遺伝カウンセラーの職種や活躍の場はさまざまですが、私は、一人でも多くのスタッフに遺伝医療を知ってほしいので看護師職を通し、実践しています。
東北地方における「家族性腫瘍(がん)familial tumor (cancer)」の遺伝子診療の拠点
貴院の「がんの遺伝外来」はいつごろ開設されたのでしょうか
貴院の「がんの遺伝外来」では、どのような診療が行われているのでしょうか
当院が診療を行っている家族性腫瘍(がん)familial tumor (cancer)とは、腫瘍(癌)の家族集積または家系内集積とも呼ばれています。腫瘍(がん)の種類はさまざまでも家系内に罹患者が多くいる場合、遺伝性による発生が疑われます。ただ、遺伝性ではなく環境曝露による場合もあります。家族性腫瘍(がん)は、若年発症・多重癌・両側がんなどが特徴です。たとえばその一つに、遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)があります。この病気は、2013年に病気を発症する前に乳房切除手術を受けた、アンジェリーナ・ジョリーさんが診断された遺伝性のがんのことです。一般よりも若くして乳がんや卵巣がんを発症する確率が高く、その他に、卵管がん、原発性腹膜がん、男性乳がん、前立腺がん、膵がんも関連がんなんです。さらに、両側性が多かったり、最近ではトリプルネガティブ乳がん患者さんの中に、このHBOCによる乳がんが多く含まれているとも考えられてきました。ですから、もしもこれらのがんをいとこなどを含めた血縁者で複数の人が発症している家系の場合には、当院「がんの遺伝外来」や、全国の遺伝子診療を行っている診療科へ一度ご相談いただいたほうがよろしいと思います。当院のがんの遺伝外来は完全予約制で(毎週水曜日の午後)、主に遺伝性腫瘍(がん)が疑われる患者さん及びその家系の方の、遺伝相談やご希望に応じた遺伝子診断を行っています。遺伝子検査は、遺伝カウンセリングを何度も繰り返して、希望者の方が検査の意味や疑われる疾患についてほんとうに理解しているかを確認してから行うのが通常の流れです。あくまでも遺伝性腫瘍(がん)を個別に評価して、適切な人に遺伝子検査をすすめ、そうでない人にはおすすめしません。当院の遺伝カウンセリングは、まず、担当医の野水整先生によって行われます。遺伝カウンセリングでは「遺伝とは何か?」というところから説明をはじめ、その上で疾患のお話をしていきます。また、入院患者さんに遺伝性腫瘍(がん)が疑われる場合は、担当医から遺伝外来へ予約が入ります。入院患者さんへの家族歴聴取は、看護師の仕事の一つとして全国の医療機関で必ず行っていることですが、当院では、私が担当させていただけるときには、ある程度の遺伝カウンセリングの要素を聴取のなかに含ませていただいています。
理解が必要となる遺伝情報の特殊性
遺伝医療では、心理的なサポートが非常に重要と聞きますが
遺伝医療は、「遺伝継承」と「遺伝子の多様性」(生物は同じ種の中でも遺伝的背景に違いがあり多様であること)という2つの概念を合わせ持っています。「遺伝継承」に関わるところでは、遺伝情報の特殊性として、①生涯不変の「不変性」②血縁者で同じ情報を共有している「共有性」③将来の発症をある程度予測できる「予測性」があり、これらをよく理解してもらうことが大事です。特に、成人であれば、がんや突然死に関わる疾患、小児領域では遺伝性(家族性)難聴などにも遺伝医療の果たす役割は大きくなります。大まかな言い方ではありますが、この特殊性を理解することにより、罹患する可能性がある疾患での死亡率の減少や、その確率を共有する親族の健康維持、また命を永らえることに役立ちます。「遺伝子の多様性」で、たとえば薬剤に関するようなところでは、これにより体質が違う個々人に対して薬剤投与前に重篤な副作用を推測し、薬剤の種類や用量を決定することなどに役立ちます。
遺伝医療に関わる情報をどう受け止めていただきたいと思いますか
腫瘍(がん)遺伝領域をやる意義は、若年性のがんによる死亡を減らすことや、がんの早期発見・早期治療につなげるという、日本のがん対策の重要な柱の一つでもある「がんの二次予防」そのものだと思います。ただ、遺伝情報の特殊性による問題点や腫瘍遺伝ならではの問題も多数存在しますので、守るべきものと広めるべきもののバランスを、皆でよく理解していけるような社会を目指し、それに沿った医療体制を整えていかなければいけないと思います。
患者さんをサポートするために
疾患の可能性を持った方や発症した患者さんのサポートはどのようになっているのでしょうか
それから、支援していくなかでは「患者会」の存在も大事だと思っています。ただ、遺伝性腫瘍(がん)の患者会や(患者)家族会は全国的にとても少ないのが現状で、東北地方には一つもありません。そこで、今年に入ってから、私は患者会を企画してみたのですが、なかなか皆さんの都合が合わず、会として成り立たせることの難しさを感じました。そこで、まずは遺伝外来の日を利用して、外来終了後にお茶会を開くなど、少しずつではありますが交流の場を増やしていけるように考えています。そして近い将来、患者さんを支える何らかのコミュニティをつくることができるように、その一歩を踏み出したいと思っています。
※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。
プロフィール
赤間 孝典氏(あかま よしのり)
役 職 (2014年10月1日現在)
公益財団法人星総合病院 病棟看護師
出 身
宮城県
資 格 等
看護師
認定遺伝カウンセラー
〒963-8501
福島県郡山市向河原町159番1号
TEL:024-983-5511
FAX:024-983-5588
URL:公益財団法人 星総合病院ホームページ
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◆用語解説◆
家族性腫瘍コーディネーターは、日本家族性腫瘍学会の会員で本学会が年に1回開催する「家族性腫瘍セミナー」を受講し所定の単位を取得した者に対して家族性腫瘍に関する自己研鑽の証明として授与する称号である。(日本家族性腫瘍学会家族性腫瘍コーディネーター・家族性腫瘍カウンセラー制度規則 第2章 家族性腫瘍コーディネーター・家族性腫瘍カウンセラー制度(定義)第 4 条より引用)
リンク:日本家族性腫瘍学会ホームページ