(2014年4月1日掲載)
|
公立大学法人 福島県立医科大学
|
心臓血管外科手術
福島県立医科大学では冠動脈疾患に対してどのような治療をされていますか
「 胸骨の開き方 」
「 内胸動脈 」
生活習慣病や高齢の患者さんが増えているそうですが、術式の傾向にも変化があるのでしょうか
まず、心疾患の基本的な原因は生活習慣病や高血圧、高脂血症、糖尿病ですね。喫煙習慣は心疾患のリスクをさらに高くします。このような生活習慣病から動脈が石灰化したり、脂肪の塊が沈着したりして動脈硬化になります。また、年齢も動脈硬化のリスクファクターです。日本は長寿の方も多いですし、食事は欧米型に変化しましたから、動脈硬化の血管を持っている方が増加しています。それに伴い、複数の心疾患を抱えた患者さんが増えているため、複合手術の件数が増加しています。例えば、冠動脈が悪いだけでなく心臓の(※2)心臓弁膜症があるうえ大動脈に(※3)動脈瘤があるという複合型の動脈硬化症の方や心臓と血管に複合病変を持つ方、さらにがんにも罹患している方、多臓器に疾患を持った動脈硬化性疾患の高齢の方などが非常に多くなりました。現在ではこのような複合病変を持った高齢の方が治療の中心層になっています。例えば、冠動脈バイパス手術を受ける患者さんの平均年齢は60代後半です。この年代の患者さんが毎年増えています。 20年前はこの手術を受ける患者さんは60代前半の方が多かったのですが、患者さんの年齢は年々高くなっています。高齢であればあるほど、心臓、脳、肝臓、腎臓などの(※4)予備力が下がりますので、手術のリスクも高くなります。このような場合、人工心肺を使って心臓を停止して行う手術ではなく、心臓を止めずに動かしたまま行う手術、心拍動下冠動脈バイパス術をします。天皇陛下もこの手術を受けられました。これは人工心肺を使わず心臓を止めないため、非常に体に優しい術式です。また、人工心肺を用いることで生じる合併症のリスクを回避することができます。
心拍動下冠動脈バイパス術ではどのように心臓と血管を縫い合わせるのでしょうか
「 心拍動下冠動脈バイパス術の展開 」
「 冠動脈の吻合 」
手術室にはカメラがついており、手術は毎回記録しています。手術のビデオ記録は患者さんやそのご家族が希望された場合、ご覧いただいています。また、録画ビデオだけではなく、手術を受ける患者さんのご家族は別室にて手術の様子を見学いただくこともできます。
心臓血管外科医への道
心臓血管外科医を目指す医師が多いそうですが、その道のりは険しいようですね
「人工心肺」
心臓血管外科医に必要なことはなんでしょうか
「 教授オペ中 」
手術とはスピード感を伴う高度な知的作業だと思います。スピード感を持った適切な判断力と現状認識した上での予測力がなければなりません。スポーツでもそうだと思いますが、目の前の事象から次を予測できる人というのは、上手ですね。外科医にも予測するというイマジネーションが必要です。目の前の作業をしながらも、頭の中では次のステップ、そして最終ステップを考えながら手術をしていくと極めて迅速かつ流れのいい手術ができます。このような考え方は術者に限らず、芸術家やスポーツ選手など頭と手を使って何かを成し遂げる人たちに共通する考え方だと思います。
医療の進歩に欠かせない医工連携
福島県立医科大学では医工連携にも力を入れているそうですね
例えば、心拍動下冠動脈バイパス手術においてバイパス吻合して固定する場合、良い固定と悪い固定があります。
医療と工学の垣根のない研究環境を構築するためにも、当大学では医工連携の一環として日本大学の工学部の尾股教授と共同研究をしています。その結果、心臓表面の3次元運動を数値化することに成功しました。この数値化によって、心臓が1回動いた時、どれだけの移動距離があるのか、どれだけのスピードで動いているかを確認することができます。この情報から心拍動下冠動脈バイパス術において、どのような吻合をすればしっかり固定できるのかを確認することができるのです。
どのような研究から心臓表面の3次元運動の数値化に成功し、その情報からどのような可能性が広がるのでしょうか
心臓表面の3次元運動の数値から何かわかるかというと、心臓が1回動いた時の移動距離やスピードだけではなく、拍動の加速度や減速度という(※5)パラメータを知ることができます。加速度とは急発進、減速度とは急ブレーキだと捉えてください。このように拍動の数値から、どのような縫い方をすればしっかり固定できるのかを確認することができます。また、固定の良し悪しを確認できるので、スタビライザーの拍動抑制の良し悪しの比較も可能です。例えば、あるスタビライザーで検証した結果、スタビライザーを付けて心臓の動きを固定する前を100とすると、固定後は17%と8割以上の動きを抑制していることがわかりました。しかし、速度や加速度、減速度というスピードからすると、小さな動きはほとんど抑制されていないということが数字として確認できたのです。このように、スタビライザーの抑制度合も数値化できるので機種の比較検討が可能になりました。
また、この数値化によって心臓を強くする薬、弱くする薬、脈を速く、または遅くする薬を使ったときに、固定が良くなっているのかどうかも調べることができます。そうすると心拍動下冠動脈バイパス手術の時には、どの薬を使えば固定が良くなるのか、バイパスの出来具合も良くなり血液がスムーズに流れているのかといった研究ができるようになります。
先生は医療機器の研究開発にも貢献しているそうですね
血管吻合練習を目的とした心拍動下冠動脈バイパス手術トレーニング装置が開発されました。これは心臓外科専門医や専門医の取得を目指す医師のための血管吻合の手技トレーニングシステムで、吻合後の血管内の血流をコンピュータによって解析することができますので、吻合の良し悪しが可視化され数値化されます。うまく吻合ができていない狭窄がある箇所では血流に乱流が生じるので、どういう縫い方が良いのかを感覚ではなくしっかり数値で確認することができます。このシステム開発について、私からもアドバイスさせていただきました。「 冠動脈吻合トレーニングシステム 」
先生は医療の面から福島の復興に取り組まれていますが、これからの福島に必要なことはなんでしょうか
私は当学の代表委員として「うつくしま次世代医療産業集積プロジェクト企画運営委員会」に所属しています。このプロジェクトは21世紀の産業として期待されている医療機器関連産業の振興と集積を図るために福島県で実施されています。医療産業集積地域でもある福島において、医工連携、そして医療産業はとても大きな役割を担うでしょう。これらのプロジェクトを盛り上げるためにも人材や人が集う場所が必要だと思います。福島と全く関係のなかった方々も震災以降福島に注目しており、これは日本に限ったことではなく、全世界の注目を集めている状態です。そんな福島で多くの人が集まり、話をし、知恵を出し合う場所をさらに提供できれば、福島の復興が加速すると思います。福島をもう一度安全な場所、前より良い場所にすることは日本のミッションでもあると思います。今まで日本は世界から「安全安心の国」、「科学の発達した国」であり、日本人は責任感の強い頭のいい優秀な国民だと思われてきましたが、残念ながら福島第一原発事故により国際的な日本の評価は下がってしまいました。これを巻き返すためにも、まず福島で頑張るしかないのではと思っています。もちろん、福島県民が自分たちの足で立ち上がり努力するわけですが、世界の様々な人材の協力を得るということも大事なポイントかもしれません。海外のサポートを要請したり、サポートを受け入れたりする努力も、今の福島には必要だと思います。福島への貢献の形は全世界の人に通じます。福島の子供たちに対してどういうアイデアでどのような取り組みをしているのか、今は世界の人たちにも伝わりやすくなっています。だからこそ、福島に貢献されている方々にももっとスポットライトを当て、多くの方と協力しながら福島の復興に向けて盛り上がっていければと思います。
※連載・医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。
プロフィール
横山 斉氏(よこやま ひとし)
役 職 (2014年4月1日現在)
福島県立医科大学 理事長特別補佐
心臓血管外科学講座教授
資 格
日本胸部外科学会指導医
日本外科学会指導医
心臓血管外科専門医(修練指導医)
脈管専門医
麻酔科標榜医
学 会
日本心臓血管外科学会(常任理事)
日本循環器学会(東日本外科系代表理事)
日本冠動脈外科学会(理事)
日本胸部外科学会(評議員)
日本外科学会(代議員)
日本冠疾患学会(評議員)
日本人工臓器学会(評議員)
日本脈管学会(評議員)
日本血管外科学会(評議員)
International Society for Minimally Invasive Cardiothoracic Surgery (Member)
International Society Cardiovascular Surgery (Member)
American Heart Association (Member: Council on Cardiovascular Surgery and Anesthesia)
委 員
日本心臓血管外科専門医認定機構委員
National Clinical Database (NCD)専門医制度委員
Topic advisory member for WHO-ICD working group
日本循環器学会診療ガイドライン(急性心筋梗塞)委員
日本学術振興会科学研究費委員会専門委員
社会活動
福島県復興ビジョン検討委員
福島県復興計画検討委員
いわき共立病院新病院検討委員
米沢市立病院新病院検討委員会副委員長
南相馬市立病院脳卒中センター検討委員会委員長
福島県立病院改革プラン策定委員会委員長
〒960-1295 福島県福島市光が丘1
TEL:024-547-1111(代表)
URL:公立大学法人 福島県立医科大学ホームページ
◆用語解説◆
肋骨と肋骨とを連絡している筋肉