情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2014年8月1日掲載)

福島赤十字病院
院長 芳賀 甚市氏


赤十字精神に則り地域医療への貢献と災害医療に尽力し、福島の医療の発展に貢献する

 福島駅から国道4号線沿いに車を10分ほど走らせた福島市の中心部に福島赤十字病院は位置する。「みなさまに信頼され親しまれる福島赤十字病院」という基本のもと、地域医療機関との連携をはかり、地域医療・救急医療・災害時の救護活動に努めている。福島赤十字病院地域連携懇話会をはじめとした各種研修会などを積極的に開催し、地域医療の発展に寄与している。今回、院長である芳賀甚市先生に赤十字病院としての地域医療への貢献や医療機関における人材育成の課題、災害医療や救急医療への取り組みについてお話を伺った。


創立70周年を迎えて
創立から70周年を迎えられたそうですね。これまでの軌跡を教えてください


「昭和18年 日本赤十字社福島支部療院」
 日本赤十字社は、明治10年に創立された博愛社を前身として明治20年に「日本赤十字社」と改称されスタートしました。福島県に日本赤十字社の医療施設がなかったため、昭和18年に福島市の舟場町に日本赤十字社福島支部療院として開設され、病床数32床からのスタートでした。昭和18年というと太平洋戦争の最中であり、昭和19年になると救護看護師の不足が問題になりました。そこで、大量に救護看護師を養成しなければならず、福島療院は病床数を52床に増やして対応することになりました。また、同年、名称も福島赤十字病院と改称しました。その後、増床に伴い施設の増改築が行われたのですが、手狭になってきたということで、昭和37年に現在の入江町に移転しました。当時、病床数は200床でしたが、現在は一般病床が303床、精神病床50床、感染症病床6床の計359床に拡大しました。

「昭和37年 福島赤十字病院」
 日本赤十字社は、全国で92の病院を運営しており、そのすべてが赤十字の精神に則って運営されています。赤十字はスイス人のアンリー・デュナンによって創設されました。彼は戦場において分け隔てなく兵士たちを救護しました。彼の「人類はみな兄弟」という言葉も有名ですね。彼の精神が赤十字として受け継がれ、今に至ります。また、福島出身の新島八重さんは赤十字との深い関わりがあります。彼女は日本赤十字社の社員となり、日清戦争、日露戦争において陸軍病院で看護にあたり活躍しました。このような歴史を経て、当院はおかげさまで平成25年に創立70周年を迎えることができました。県北医療圏の中核病院のひとつとして、当院は地域医療に重きを置いております。もちろん、日本赤十字社としての災害救護の目的もありますので、この2本柱が当院の大きな目的です。


全国に赤十字病院があるそうですが、他県の赤十字病院との連携などはあるのでしょうか

 日本赤十字社には、全国に92の医療施設があり、それらの規模は700~800床の大規模病院から100床に満たない病院など様々です。毎年、各病院の院長や事務部長などが集まって会議や勉強会を開き、他県の赤十字病院と情報交換をしたり抱える問題について相談しあったりしています。地方と中央部の現状や差異を知る機会となり多くの刺激を受けますが、それと同時に各病院が抱える問題には地域ごとで違いがあり、抱える問題には改めて地域性があることに気づかされます。また、病院の経営改善や人材育成の課題などほとんどの病院が抱える問題点についてもディスカッションができるので、病院運営におけるヒントを得る良い機会になっています。


人材育成というお話がありましたが、こちらではどのように取り組まれているのでしょうか

 臨床研修プログラムにおいて、当院では選択重視プログラムと県北ネットワーク初期臨床研修プログラムを実施しています。おかげさまで、平成26年度の募集は募集定員をすべて満たすことができました。この結果は、研修医に対する当院の医師の熱心な指導によるところが大きいと思います。当院の医師は、研修医に対して優しく細やかに指導していますので、その点が評価されたのではないでしょうか。当院では、血管撮影の助手や手術の助手などを積極的に研修医の皆さんに行ってもらうようにしています。
 私共には、研修内容の評判が医学生の皆さんの間に徐々に広まっているという実感があります。当院で研修された先輩の声が学生さんにとって一番大きな印象を与えたためか、当院の研修医が新たに学生さんを紹介してくれるケースが多いですね。具体的な研修医の感想としては、「医師が治療に対して熱心で研修医に対してマンツーマンに近い形でつくため、手技がたくさんできる」という声や「実際に患者さんに接する機会が多いので、とても勉強になった」という感想をいただいています。
 患者さんに対する初期診断の経験を積むことができるのも、研修医の皆さんにとって大きいようです。お腹が痛い、胸が苦しいという患者さんを診察して、医師の助言を受けながら自分自身の診断ができることはとても興味のあるポイントでしょう。頭だけではなく、自分で身をもって覚えることができる研修内容は、「医師との距離だけでなく患者さんとの距離が近いので、うれしい」という率直な声もいただいています。医師だけでなく、看護部門や(※1)コメディカルも同じように研修医を育てているという意識をもって研修医の皆さんに接しています。研修医と医師との関係が良くても、看護師との関係が築けなければ最大限の治療ができませんし、良い医療提供にはつながりません。やはり医療における連携はあらゆる場面で重要です。私共は、事務局も含めて病院全体として人材育成に力を入れています。
 医学生の皆さんにとって、研修病院の高度医療の提供の度合や研修環境にも興味があると思います。そうした面で、当院には災害医療の(※2)DMATが3チームあり、高度な最新の救急医療の教育がされています。

「東日本大震災の災害救護」

「災害救護訓練」
また、こうしたDMATの他に、1班6名の編成である救護班を8班常備していますし、災害医療に強い医療機器や衛星通信機器なども充実させています。東日本大震災での教訓を活かして、通信機能を搭載したDMATカーを整備するなど福島県が各災害拠点病院に様々な支援をしてくださっているので、大変ありがたいことです。また、赤十字ならではの災害救護活動もあり、その訓練内容も充実しています。実際に、震災時には研修医の皆さんにも救護に入っていただき、避難所などの巡回診療に同行する活動も行いました。赤十字の職員は、災害や救急に関する一定の基礎知識を必ず持たなければならず、これは日本赤十字社の使命でもあります。だからこそ私共は日頃から災害救護の養成研修を数多く開催しており、医師だけではなく看護師やコメディカルにも当院で働くための前提となる知識としてそれらを身に付けてもらっています。


こちらでは初期臨床研修プログラムとして、県北地区の協力病院と連携をされているそうですね

 私共は、県北ネットワーク初期臨床研修プログラムを実施しています。このプログラムは内科、救急、地域医療を必修とし、外科、小児科、産婦人科、精神科・神経科、麻酔科を選択必修としています。研修医は将来専門としたい診療科での研修を福島県北地域の臨床研修病院を協力病院とし、協力病院の各診療科において研修を行うことができます。研修医の希望に沿って、他の病院との連携により各病院の強みである診療科で学ぶことができるというメリットがあります。例えば、県北の総合病院のうち精神科の入院病床を持っているのは当院だけです。そのため協力病院の研修医が当院の精神科の研修に来ることもあります。一つの病院だけでは臨床研修プログラムを完結できない場合もあるので、その問題を解決するために各病院が話し合いを持ち、このプログラムは誕生しました。このように、研修医に対するプログラムを進化させなければと感じています。そのため、当院の医師にプログラム内容の案を検討してもらうなどより良い研修ができるように努めています。
 福島県の医師の充実を考えた場合にもこのような病院間の交流は非常に有益です。こうした交流で、例えば、福島県立医科大学の学生さんが福島市内の病院で研修をした場合、市内の医療状況を把握することができます。その後、その研修医が福島県立医科大学の医局に入局すると、地域における医療連携を考える面からも医大の人材の充実にもつながるということで喜ばれています。このように福島市内の病院全体で育てた研修医達が母校に入局し、医師として従事するというサイクルから、福島全体としての医療が発展するよう願っています。


 

地域の開業医とのスムーズな連携を図る目的で、こちらでは「福島赤十字病院地域連携懇話会」を開催されているそうですね

 従来、「福島赤十字病院病診連携連絡会」として実施していましたが、現在の連携は開業医や病院だけでなく保健、介護、福祉の領域など多岐にわたり複雑になってきていることから、平成24年に「福島赤十字病院地域連携懇話会」と名称を変更しました。この懇話会では、患者さんをご紹介いただいたり、当院からご紹介した患者さんを診ていただいたりした開業医の皆さんや地域の医療介護関係者の方々にも年に一度お集まりいただいています。この懇話会では、簡単な講演会を開くだけでなく積極的に意見交換していただいていますので様々な病院に対する患者さんからのご要望や苦情などを伺うこともできます。 また、各病院の新しい医師の紹介などもあるため、日頃知り得なかった他病院の状況を知る良い機会になっています。
 当院は、地域医療支援病院にも指定されていますので、当院のMRIやCTなどを地域の医療機関と共同利用しています。そのほかにも当院が主催する研修会は数が多く、医療安全や病院の運営に関するトピックなどその内容も豊富です。このような研修会の実施は日本赤十字社の方針でもあり支援病院の要件でもあることから、盛んに開催しています。例えば、当院で感染研修会を開催する際は、職員だけでなく地域の医療機関の方々にもお声掛けして参加いただくこともあります。私共はこのような研修会を通して、地域医療の向上につながればと思っています。


診ることが多い疾患の傾向
長い歴史があり福島に大変根付いた病院ですね。福島赤十字病院に来院される患者さんの疾患にはどのような傾向がありますか

 救急に強いという当院の特色にも関係してか脳外科疾患や心疾患、循環器疾患ですね。具体的には脳梗塞や心筋梗塞、狭心症が多いように感じています。当院は、先ほどもお話ししましたが災害救護や救急に力を入れていますので、脳梗塞や心筋梗塞に見舞われた患者さんが運び込まれるケースが多いです。特に、県北地区の病院の中では当院の急患数が一番多いため、このような疾患の患者さんが多く集まる傾向にあるのでしょう。


乳がんの検診の重要性は徐々に周知されてきていますが、実際に検診を受けられる方は増加傾向にあるのでしょうか

 当院はマンモグラフィーの検診施設としても認定されています。検診に来られる方は若干増えてきています。高齢者の中には「私は80歳を過ぎたからもう検査は受けなくていい」と言う方もいらっしゃいますが、私は「来なさい!」と言いますからね。乳がんは、早期発見ができればほとんど治すことができますので、検診は非常に重要だと思います。国の指針ですと40歳以上を対象に乳がん検診を受けるように言われていますが、40代になってから検診を受ければ必ずしも問題がないわけではありません。しかし、40代前までの年代での乳がんの罹患率は低く、40歳を過ぎると急激に罹患率は高くなるため、国の指針はやはり妥当ではないでしょうか。福島市の場合は乳がんの検診は2年に一回です。しかし、母親など親族が乳がんに罹患した方がいるために不安な方は、年に一回の検診を受ければよいかと思います。


先生のご専門の消化器外科領域では、どの部位の治療が多いのでしょうか

 現在、私は手術をしておりませんが、外来で患者さんを診ております。消化器というと食道から直腸、そして肛門までありますが、当院の患者さんが罹患している疾患としては胃がんが多いですね。最近では、大腸がんの患者さんが増えてきていると思います。以前の下部大腸がんの外科手術では、肛門と括約筋も切除してしまう直腸切断術を行うので、人工肛門を付けていただくことが多かったですね。あまりにも肛門に近い部位にがんが発生した場合、やはり機能温存はできませんが、現在ではなるべく肛門を温存しようという考えから機能温存術に移行しています。
 私が執刀していたころは消化器に限らず手術を行っていましたので、幅広い知識が求められました。医師の数が少ない上に現在のように専門分野も細分化されていませんでしたので、どんな手術でも執刀しなければならない状況でした。自分の専門外の手術だから受け付けないと言っていられないため、様々な手術で執刀しましたね。


患者さんと接する際に心掛けていることを教えてください

 一人ひとりの患者さんに優しく丁寧に接することです。昔と比べると現代では患者さんの要求などが変化してきていますし、(※3)インフォームドコンセントの確立が難しい場合もあります。最近では医療に関する情報がメディアなどを通じて、多くの方に提供されています。そのため、ある一部の情報を知った患者さんが自分の症状にも当てはまるはずだ、この治療法が最適なはずだと医師に伝える方がいらっしゃいます。しかし、患者さんの症状によって治療方法は一人ひとり異なりますので、一部で報道された治療法が必ずしもその患者さんにあてはまるわけではありません。患者さんの症状に併せて治療法も異なることを丁寧に説明し、患者さんにご理解いただいた上で診療を進めています。一人ひとりの患者さんと丁寧に向き合って、これからも診療を続けていきたいと思います。



※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
芳賀 甚市氏(はが じんいち)

役  職 (2014年8月1日現在)
 綜合病院 福島赤十字病院 院長

資  格
 日本外科学会・認定医
 日本消化器外科学会・認定指導医
 マンモグラフィー検診精度管理中央委員会認定
 マンモグラフィー読影認定医

学  会
 日本外科学会
 日本消化器外科学会
 


 綜合病院 福島赤十字病院
 〒960-8530
 福島市入江町11番31号
 TEL:(024)534-6101(代表)
 FAX:(024)531-1721
 URL:綜合病院 福島赤十字病院ホームページ







◆用語解説◆

※1 コメディカル

医師と協同して医療を行う検査技師や放射線技師、薬剤師、栄養士などの病院職員のこと。

※2 DMAT

災害派遣医療チームのことで災害急性期(発生から約48時間以内)に活動できる機動性を兼ね備えた医療チームのこと。救急治療を行うための専門的な訓練を受けた医療チームで、医師や、看護師、業務調整員(医師、看護師以外の医療職及び事務職)で構成される。Disaster Medical Assistance Team の頭文字をとってDMATと呼ばれる。

※3 インフォームドコンセント

医師が患者に検査や治療の目的や内容、効果、危険性などについて十分に説明し、患者の同意を得ること。
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