情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2015年12月1日掲載)

JA福島厚生連 坂下厚生総合病院
小児科 部長 青木 英子 氏


住民と同じ目線に立った診療で
地域の小児医療を支え続ける

 福島県河沼郡にある唯一の総合病院であるJA福島厚生連坂下厚生総合病院。この病院では「安心と信頼を基本とした思いやりのある保険・医療・福祉の提供」という基本理念のもとに、1958年から地域住民の健康を支え続けてきた。その中で、小児科部長の青木英子氏は患者や患者家族との信頼関係を、患者が乳児期の頃から積み重ね、ときには二世代にわたって受診する親子の健康を守ってきた。周辺地域を含めて常勤の小児科医が少ないという状況の中で、青木先生は患者教育に特に力を入れ、できるだけ患者を軽症で済ませる医療を提供している。「あまり特別なことはしていませんけれども」と青木先生は優しげな笑顔を見せながら控えめに語る。今回青木先生への取材を通して、小児医療における患者教育の予防的意義が見えてきた。


地域の小児科医として
先生と会津坂下町を中心としたこの地域との関わりと、貴小児科の特長をお教えください

 坂下厚生総合病院に着任して21年になります。着任した当時の印象は、患者さんと病院との信頼関係が残っていて、仕事がしやすい病院だと感じました。未熟な医師だった私に対しても、患者さんたちは礼儀正しく接してくれて、とても温かみを感じました。
 当科の体制は、着任当時から常勤医は私一人で現在も変わりません(毎週水曜日は福島県立医科大学の医師による腎臓病専門外来:2015.12.1現在)。
 受診される患者さんは、アレルギー性疾患や腎臓病といった慢性疾患の患者さんももちろんいらっしゃいますが、ほとんどはちょっとした風邪や胃腸炎など軽症の患者さんが多いです。当科では、薬を処方して終わりとするのでなく、患者さんや保護者への指導というか患者教育・育児相談に重きを置いています。当院は総合病院ですので、地域の人たちに求められる医療に応えたいという思いがあります。しかし、自分一人でやるには限界があります。そこで、浅くてもいいから何でも診るというスタンスをとっています。症状によってはどの診療科を受診すれば良いのか迷われることもあると思いますので、常々「子どものことだったらなんでも相談してください」と話しています。そこで不可欠なのは他科との連携です。診察中に気軽に他科の先生と相談し合ったり、急ぎの場合は紹介状なしに他科の先生に診ていただいています。そういった敷居の低さが、一人でも困ることなくやってこられた秘訣だと思います。


地域の小児医療の現状と、患者教育について
県内では小児科常勤医がいない病院も少なくないと伺うのですが、この地域においてはいかがでしょうか。また、そうした地域の状況を踏まえて貴小児科で力を入れていることをお教えください

 会津医療圏全体として見ると、小児(救急)医療体制が全く足りていません。当院も含め常勤の小児科医1名体制という医療機関がほとんどで、地域によっては非常勤医しかいない所もあります。常勤医が複数いる病院は、会津に一カ所しかないため、小児救急は全てそこに集中してしまうという状況です。そこで、夜間や休日に受診するのを減らすために保護者への患者教育に時間をかけています。例えば、発熱で受診された患者さんで、夜にまた高い熱が出ると予想される場合は、どの程度の症状であれば家で様子を見て良いか、また、様子を見るときの対処方法を、さらに、どんな状態になったら救急を受診する必要があるのかを指導しています。


患者教育を行う上では初診時の対応も重要になると思いますが、先生が普段の診察の中で気をつけていることはございますか

 軽症で受診された患者さんでも、保護者が気づいていない別の病気の兆候や心理・環境等の問題を見逃さないように、気をつけています。ごく軽い症状でも受診するのは医療費が無料(※1)であるという気軽さもありますが、保護者の不安が強いからとも言えます。アレルギー性疾患についても、最近の傾向として軽症でも受診されることが多くなったように思えます。患者さんの辛さ以上に、保護者が心配だから連れてくるのです。従って、患者さんの治療の他に、保護者の不安に応えることが必要です。特にアレルギー性疾患の子を持つ保護者の中には、極端な食事療法や過剰な除菌などをしてしまう方もいるのですが、やり過ぎは、別の問題を引き起こします。アレルギー性疾患は日常の生活指導が大事ですので、あまりカリカリせずに継続可能な環境整備と治療を提案するよう心がけています。
 学童の患者さんが頭痛や腹痛で受診されたときは、背景には起立性調節障害(※2)があったり、部活や習い事等で蓄積された疲れと睡眠不足が原因となっていることが多々あります。さらに、最近注目されている知的障害を伴わない発達障害を抱えている場合もあります。軽度の発達障害は、幼いときは問題が見えにくいのですが、年齢が高くなるにつれて学校などでの周囲との違和感を強く感じるようになるのです。


そうすると、患者さんや保護者をじっくり診ながら、患者教育を進めていくということも大事になってくるのですね

 もちろんそうです。例えば心因性咳嗽(※3)という疾患はストレスを強く感じやすい子どもに多いので咳の原因がストレスにあるということを保護者に気づいてもらうことが治療を進める上で必要です。その上で、子どもに過干渉しないように指導します。こういった患者さんを、じっくり診られるよう、2013年から思春期外来を開設しました。
 小児科は一般的に15歳までの患者さんを対象としているところがほとんどですが、中には、15歳以降でも小児科で診たほうがいい人がいます。そういった人も小児科を受診しやすいようにしたいという思いもあり、思春期外来を開設しました。時間を気にせずゆっくり話を聞けるよう、通常の診療時間とは別に、予約制でやっています。
 思春期外来の患者さんの中には児童精神科医などの専門医による診療が必要な方もいます。そのような患者さんについては専門の医療機関に紹介しますが、専門医が絶対的に不足しているので、継続して毎月のように診てもらうのは難しい状況です。そこで、専門医で診断を受けた後は、特に専門性の高い治療については専門医で、それ以外の部分は当院で診るという、二段構えでやっています。私自身、この分野の専門医ではないので、学会や研修会等で勉強しながら診療していますが、何と言っても、患者さんから学ぶことが一番です。


保護者に対する患者教育というのは、先生と保護者との信頼関係が不可欠だと思いますが、その信頼関係はどのように構築されているのでしょうか

 当院では、病気の子を診るだけでなく、予防接種や健診も行っています。予防接種は生後二ヶ月から始まるので、そのときが患者教育の始まりだと思っています。初めての予防接種のとき、若いご両親が赤ちゃんを、とても大事そうに包んで、緊張して抱っこしてくるのですが、そこで、適切で楽な抱っこの仕方とか、あるいは肌が弱そうな赤ちゃんには、適切なスキンケアの指導などします。保護者からは「こんなことで相談して申し訳ないんですけど」と言われることもありますが、「そんなことないですよ」と、返します。病気でないことでも、大したことじゃないことでも、なんでも相談してもらえるようなかかりつけ医でありたいと思っています。


子どもたちを診療する上で、貴小児科で取り入れている工夫をお教えください

 子どもたちが自分から診察室に入って行きたくなるような、そういう楽しい雰囲気の場を作ろうと心がけています。
 小児科外来の診察室は、子どもたちが動き回って遊べるくらいにゆったりした作りになっています。そうすることで、その子本来の姿を観察することができますし、親と子の関係も観察しやすくなります。
 病院のホームページにも写真を掲載しているのですが、子どもと保護者とが一緒に横になって点滴を受けられるスペースを設けています。ある程度大きな子どもは処置室のベッドで点滴をしますが、小さな子どもはベッドから落下する危険もありますのでそうしたスペースを設けました。また、そこはカーテンで仕切れば授乳スペースにもなります。ここは元々普通の待合室であったところを、看護師のアイディアを取り入れ、少しずつ作り上げてきました。
 処置の方法についても最近取り入れた工夫があります。点滴や採血などの処置を行う際に、親に子どもを抱っこしてもらうやり方です。以前は処置を行う際、親には別の場所で待っていただいていましたが、子どもにとっては、親がいないことで、より不安・恐怖が増します。親に抱っこしてもらう方法は、親にも治療に参加しているという意識が芽生えると思います。ただし、立ち会いを希望しない親には無理には勧めません。


今後の展望
青木先生の今後の展望をお聞かせください

 小児医療も、病院の中で完結するものではなく、地域との連携が必要であると実感するようになりました。学校や保健師、ときには児童相談所等です。特に思春期外来の患者さんは、家族の努力だけでは解決が難しいことが多いです。学校の教師と直接話をすることで、子どもの問題行動に対する考え方が変わり、教師も子どももともに、気持ちが楽になるようです。また、保護者への介入を、保健師にお願いすることもあります。私たち医療者は、病院の中にいるだけでは患者さんの一面しか見ることができませんが、地域との連携の中で、患者さんの置かれている状況を多面的に見ることができるのだと思います。
 地元の一般の方と話をする機会としては、ファミリー・サポート・センターの提供会員に向けた講習会の講師をしております。このファミリー・サポート・センターというのは地域における子育て支援のため全国の市町村に設けられたNPOで、育児の援助をしてほしい依頼会員と、育児の手助けをしたい提供会員とで組織され、会員の相互援助活動により育児の援助が行われております。県内でも現在25の市町村でこのファミリー・サポート・センターが設けられており、会津坂下町では2004年4月という県内では最も早い時期から活動が始まりました。育児援助の具体的内容としては、保育所にまだ入所できない子どもや、短時間だけ預かってほしい子どもがいるときに、依頼会員がセンターへ依頼を出すと提供会員が子どもを預かってくれる、という仕組みになっています。提供会員は、定年退職した元看護師や元教師、あるいは医療や教育に携わってはいないけど、意欲のある一般の方など様々ですが、子どもを預かるに当たって必要な知識やポイントを学んでいただく講習会を受講することになります。講習会では小児科医だけでなく、保健師や救急救命士、臨床心理士などいろいろな専門職の講義を聞くことができる内容になっています。
 こうした講習会などの講師を行うことで、一般の人がどんなことを知りたがっているのかに気づかされます。これからも、時間がある限り病院の外に出て行って、地域の人と同じ目線を持って診療できるようになりたいと思っています。



※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
青木 英子 氏(あおき ひでこ)

役  職 (2015年12月1日現在)
 坂下厚生総合病院
 小児科 部長

卒業大学
 福島県立医科大学(1984年)

資 格 等
 日本小児科学会専門医



JA福島厚生連 坂下厚生総合病院

〒969-6593
福島県河沼郡会津坂下町字逆水50番地
TEL:0242-83-3511
FAX:0242-83-2850
URL:JA福島厚生連 坂下厚生総合病院ホームページ






◆用語解説◆

※1 医療費が無料

福島県では、2012年10月1日から全市町村において、18歳以下の医療費を無料化する助成が実施されている(2015.12.1現在)。対象者が健康保険適用の診療を受けたときに支払うべき自己負担額(診療費や入院時食事療養費等)が、事業の実施主体である各市町村によって助成される。助成を受けるためには、住所地の各市町村で登録をする必要がある。

※2 起立性調節障害(OD)

通常、人は起立する際に、交感神経及び副交感神経により血圧がコントロールされ、重力による下半身への血圧貯留が防がれるが、起立性調節障害ではこのコントロールが働かず、結果として起立時に血圧が低下し、脳血流や全身への血行が維持されなくなり、思考力・集中力の低下や動悸・息切れなどが現れるようになる。中学生の約10%がこの疾患を持つと言われる。

※3 心因性咳嗽

器質的所見が認められず、心理社会的条件によって症状に消長がみられる、長期間にわたって続く乾性咳嗽の場合、心因性咳嗽が疑われる。小児慢性咳嗽の代表的な原因疾患の一つで、学童期以降に増加すると言われている。
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