情報誌「医療人」®

今月の医療人紹介

(2016年1月4日掲載)

公益財団法人星総合病院
病院長補佐兼形成外科部長 佐瀬 道郎 氏


機能・整容面に配慮した形成外科手術手技

 すべての診療科と様々な連携を取りながら広い領域の治療に携わる形成外科。治療においての大きな役割は移植術や再建術などの手技により機能や形態を正常にし、整容面での改善を図ることだ。その整容については初診時の状態や疾患の進行状況等により必ずしも好影響とはいかないが、QOL(Quality of Life)の向上や心理面への前向きな影響を与えることも多い。今回は、そうした形成外科医の治療技術について、公益財団法人星総合病院院長補佐兼形成外科部長の佐瀬道郎氏に話を伺った。形成外科専門医として27年目の佐瀬先生は、後輩にあたる14年目の医師と2人常勤体制で皮膚悪性腫瘍の切除、再建(特に顔面領域の症例)、褥瘡(床ずれ)(※1)、乳房再建を専門とし、その他にも形成外科全般の治療を行っている。


形成外科医の治療技術:形成外科とは
一般の方々にも形成外科という診療科への認識を深めていただくために、治療目的や役割についてお聞かせ願えますか

 形成外科とは、頭部から指先までのすべての部位を対象とし、身体に生じた皮膚軟部組織(※2)の欠損、変形、異常などに対して、機能的にも形態的に元の状態に復元することを目的とした外科です。形成外科では顔面の骨と四肢末梢の骨は扱いますが、通常骨を扱うのは整形外科です。形成外科医が移植術や再建術などの治療技術を持つことで、例えば一般外科や整形外科の先生方が悪性腫瘍などの病巣を取り除く手術を行うにあたり十分な切除範囲を取って腫瘍の切除を行うことができます。それは再発予防にもつながる大切なことです。
 また、限りなく元の状態に復元することにより機能・整容的な改善が得られることになるわけですが、それにより患者さんが精神的ストレスから解放され明るい表情を取り戻すなど、精神面において大きな影響をもたらすこともあります(心療外科の側面)。実際に治療を進めていく中で、術前、術中、術後、術後数カ月という段階で患者さんの写真を撮影するのですが、術後から表情が明るくなっていくのを見た時や初診時にマスクや帽子でお顔を隠して来られた方が術後の再診時にそれを外して来られた時などは、治療に対して満足あるいは納得してくださったのかなと少しほっとします。


星総合病院形成外科の診療体制と特色を教えてください

 当科の診療体制は、大学の後輩と2人常勤の体制ですが、大学医局から派遣された非常勤医師が月に延べ10~12人応援(アルバイト)に来てくれています。診療では、私自身にとって待つということはとてもストレスに感じるので、できるだけ患者さんをお待たせしないようにと努めています。具体的には、人員が十分ではないので、電話予約の段階で形成外科外来の専任看護師に調整してもらい、待ち時間の短縮を図っています。また、初診からできるだけ早く手術するように心がけています。例えば、良性の皮膚腫瘍などは初診日当日に切除を希望される方も多いのですが、できるだけ対応しようと考えており、希望患者さんの半数前後には対応ができていると思います。そうしたことは、後輩が卒後14年目の形成外科専門医であること、また外来看護師は10年以上形成外科で働いていることからお互いのやり方を理解し合っていて、気心が知れた間柄という良好なチームワークが確立できているからこそなせることかもしれません。県内でも経験年数が27年目と14年目の形成外科専門医の2人体制というのは極めて稀だと思います。



形成外科医の治療技術:専門分野(皮膚悪性腫瘍の切除、再建)
頭部から指先までのすべての部位という広い範囲の治療に携わる中でも、佐瀬先生はどの領域を専門とされているのでしょうか。また、興味を持たれたきっかけはどのようなことでしょうか

 現在、3領域を専門にしています。第1は皮膚悪性腫瘍の切除、再建、特に顔面領域の症例。第2に褥瘡(※1)。第3に乳房再建です。
 第1の皮膚悪性腫瘍の切除、再建(特に顔面領域の症例)については、卒後2年目の時にフィリピンで行われたASEAN形成外科学会に連れて行ってもらったのですが、その時の特別講演のDr.Burgetの外鼻再建に感銘を受け、卒後4年目でDr.Burgetのもとに留学させてもらったことが顔面再建を専門にしたいと思ったきっかけです。通常は形成外科医としてある程度の経験を積んでから留学することが多いのですが、形成外科医としての頭が固まる前の早い時期に一流に触れた方がよいという、当時の教授の計らいによって4年目で2年間ほど米国に留学させてもらいました。Dr.Burgetは、とにかく妥協しない方で、その姿勢は忘れられません。いまだに真似はできてはいませんが、形成外科専門医を取得する前にそうした経験をしたことが今の私の礎になっています。
 一方、妥協することも必要だと深く感じた忘れられない症例があります。それは、当院に着任してからのある時、89歳の認知症の女性が家族に連れられて、紹介状を持って来院されました。その患者さんは右頬部に大きさ3cm大の扁平上皮癌(皮膚の表皮できる癌)があり、手術適応であると説明しました。しかしご家族からは、「認知症で本人は何もわからないし、お迎えだって近いだろうから、危険な目に遭わせずに見送りたい」とのお返事でした。ところがその7年後に再び来院されたのです。拳大になった腫瘍からは異臭と出血がみられ、顔半分をタオルで覆って来院されました。7年前の89歳の時ならなんとか全身麻酔は可能でしたが、96歳ともなると相当危険な年齢です。そこで結局、局所麻酔で切除する手術と植皮(皮膚移植)する手術の2回に分けて手術をしました。その1回目の切除手術の時に、時間短縮のため躊躇しながらも人工真皮を留めるために初めて顔面にスキンステープラー(皮膚縫合用のホチキス)を使いました。そして通常の細いナイロン糸で縫合したのと遜色ない結果に驚きました。この方は99歳の時に当院でお亡くなりになられましたが、手術から3年間はガーゼが不要な生活が送れたわけです。この経験以後は、高齢の方には2回に分けて手術するのがよいとお話しています。

扁平上皮癌の切除・植皮

 近年の麻酔薬や麻酔技術の進歩により、当院では95歳くらいまでの手術症例はさほど珍しくはなくなっているようです。しかし手術の際はできるだけ執刀時間が少なく、出血量も少ないほうが患者さんの体への侵襲が少なく、加えて術後のせん妄(手術がきっかけとなって発生する認知機能の障害)出現も抑制されることを経験しています。また、2回に分けることで初回手術時間は1時間かかりません。そして通常1カ月先までの手術は予定されていますが、1時間の手術なら1つくらい増えても対応できます。これが3時間の手術であれば、1カ月後の手術になってしまいます。初診からできるだけ早く手術するように心がけていることはお話しましたが、その点でも有用なのです。そうしたことから、高齢の方の場合には比較的時間がある方も多いので、治るまでの時間が多少かかったとしても、侵襲の少ない確実な方法で治療を進めるようにしています。


佐瀬先生はどのような手技を得意とされているのでしょうか

 私は、特に顔面の局所皮弁を得意としております。顔面再建における術式の選択においては、恩師の丸山優教授とDr.Burgetの考え方を踏襲していると自負しておりますので、こだわりもあります。
 皮膚移植の方法は、大きく2つに分けることができます。分かり易く言うと、一つは薄い皮膚を移植する植皮という方法、もう一つは皮膚と脂肪で合成されている部分を移植する皮弁という方法です。植皮は比較的簡単で、専門医になる前でも十分にできる手技です。一方の皮弁についても手技としてはさほど難しくはないのですが、いずれも欠損部分に対してどのようにアプローチをするかで難しい手技になりますし、整容性も変わってきます。植皮にするか、皮弁にするかは、皮膚の欠損の厚さや面積によって選択しますが、最近では人工真皮の性能がすごく良くなってきているので、昔は皮弁でなければ不可能とされた症例に対して植皮が適応になる例もあります。
 私にとって「植皮でいい」と「植皮がよい」とでは全く意味合いが違いますが、多くの医師は、これを同じだと考えているようです。やはり治療法においても最善の方法というのは1つあるいは2つで、そのうちのどちらかという選択の中で「○○でいい」ということはないと、私は思っています。
鼻、頬への移植術



そうした皮膚悪性腫瘍の切除、再建治療を行う中で形成外科医に求められることはどのようなことだと思われますか

 過不足ない切除と、個々の患者さんの社会的要因・背景を加味して再建法を選択することだと思います。全く同じ大きさ・部位のケースでも、バリバリに働いている50歳の男性と、働きに出ていない75歳の女性では、お勧めする再建方法は異なると思います。働いている方の場合は職場復帰を望まれる方が多く、その中には早く復帰しないと身分が危ないという方もいます。そのような方には可能な限り短期間で回復できるような治療法を選択していかなければいけないと思います。ですから、もちろん整容性も大切ではありますが、患者さんと十分に話し合い、患者さんの求めている医療を提供していかなければいけない、今はそういう時代なのではないかと思います。
 また、自分ならどの治療方法を選択するか、自分の娘なら、妻なら母ならと患者さんを自分や自分の家族に置き換えて考えています。ですから子供ができて親の立場になってからは考え方も変わりました。やはり、できるだけリスクのない方法が第一選択になります。ただ、考え方というのは人それぞれ違いますので、私たちの考え方を押し付けるのではなく、選択肢を示して、それぞれの説明を十分に行った上で、患者さんに選択してもらう形を取っています。具体的には、患者さんにも分かり易いように「成功率が45%だが結果は95点の方法と、成功率は99%だが結果は70点の方法」というように具体的な数字を示しながら希望をお聞きして、選択していただくことも多いです。



形成外科医の治療技術:専門分野(褥瘡)
先生が2つ目のご専門に挙げられた褥瘡については、どのようなことがきっかけで興味を持たれたのでしょうか

 第2の褥瘡については、私は当初、褥瘡には全く興味がありませんでした。それが、専門医になった1996年頃だったと思うのですが、2回連続して褥瘡の皮弁手術の術後経過が悪かったということがあり、そのことが興味を持つきっかけになりました。また、1999年に第1回日本褥瘡学会が開催されたのですが、当時は大学の医局に所属しており、誰も大学医局から発表しないわけにいかないという理由で、命令で参加したわけですが、なぜかそれ以降も参加するようになってしまったことが第2のきっかけです。その後、私は2005年に当院に着任したのですが、2002年から褥瘡対策未実施減算(※3)が実施され、当院でも褥瘡対策チームを開設して褥瘡回診を行うなどの予防治療を行うようになった時、非常勤医として当院に勤務していたことが第3のきっかけです。手術でうまくいかなかった理由に確信が持てるようになるまでに8年かかったのですが、その頃には私は褥瘡が好きだと思われているようでした。
 その後、2009年から褥瘡ドックを行うようになりましたし、2013年の新病院移転の際には小児病棟以外の全病床に褥瘡予防のマットレスを導入するように働きかけました。皆さん特に事務方の協力のおかげでマットレスを導入できたことで当院の褥瘡発生率は以前の半分以下になっています。また、発生しても浅いものが56%で、骨に達する深いものは0でした。ですから院内発生褥瘡は浅いか超終末期であり手術適応のないものばかりです。
 一方、院外発生褥瘡いわゆる持ち込み褥瘡は、原因を見つけてそれを取り除けば、ほとんどは改善していきます。ですから褥瘡に対する手術数は年々減少しています。数字的には、2009-2011年の3年間の当院の褥瘡発生率は1.1%でした。全病床に体圧分散寝具を導入した2013-2015年の発生率は0.5%台に低下しています。これはおおよそ1年間に当院に入院した方10,000人のうち50人に褥瘡が発生したという数字です。このうち約3割が踵部(しょうぶ)褥瘡でした。このデータが出るまでは踵(かかと)に対する予防が不十分でしたが、最近ではクッションで対処できてきましたので、2018年までの3年間では院内褥瘡発生率は0.3%くらいにできればよいと考えています。
 当院は、2011年に発生した東日本大震災で旧病院の病棟の半分以上に損害がでて、その後1年半は病床数を半分以下で運用したため、褥瘡ドックは休止状態としていたのですが、今年(2016年)からは少しずつ再開していく予定です。


褥瘡ドックはどのようなことを目標とされているのでしょうか、詳しく教えてください

 ドックの対象となる患者さんは、褥瘡があっても全身状態が安定していて形成外科医が主治医として対応できる方です。すなわち心不全がひどくて循環器内科医にも診てもらう必要があったり糖尿病がコントロールされていなかったり、腎不全があるなどの方はドックの適応外としています。あくまで、他科の先生にお願いしなくても形成外科で診られる範囲の健康状態であることが第一条件です。全身状態が悪い方は、他科で入院していただき形成外科は兼科として診ていきます。また、当院では看取りを目的とした方はお断りしています。しかし、2011年3月11日までの2年余で褥瘡ドックとして42名の方をお引き受けし、入院の待機中に2名が亡くなられました。
 当褥瘡ドックでは、まず対象となる患者さんに約1カ月間入院していただきます。そして、その間に褥瘡ができた原因やその状態を把握し、患者さんに適した体圧分散寝具を選択します。また、全身状態(合併症の有無や栄養状態)も把握し、患者さんに合った治療法や予防策を検討します。褥瘡回診は、ともすれば、軟膏の処方や創傷被覆材(※4)の指示のみで終わりがちですが、当院では原因を見つけそれを取り除く方法を立案することを目的として行っています。具体的には、褥瘡の原因は圧力とズレ力です。したがってまず原因を褥瘡の部位や方向から推察します。どのような状況から発生したのか、つまり、寝ている時なのか、日中なのか、経管栄養時なのか、車いす乗車時なのかなどです。褥瘡発生の危険性の有無はOHスケール(褥瘡発生予測リスクアセスメント・スケールの1つ)の点数で評価しています。そして点数に応じた体圧分散寝具が使用されているかをチェックします。当院では4種類の体圧分散寝具を使用していますので、患者さんに応じたものかどうかチェックするわけです。OHスケールなどの褥瘡の重要項目については、看護学校時代から試験に出して教育しています。
 次に、クッションが適切に使われているかを確認します。マットレスと患者さんの体に隙間がないか、拘縮がないか、踵が浮いているかなどの項目をチェックし、患者さんのポジショニングに問題点がないか見ていきます。経管栄養時の発生が疑われるときなどは特に慎重にクッションの位置を考えます。左右非対称の場合などの場合は、患者さんが外の景色を見ていたり、テレビを見ていてできたりすることもあるので、何回かにわたり生活スタイルを見たりして様々なことを推理します。当院の褥瘡回診は、形成外科医、皮膚・排泄ケア認定看護師(WOC看護認定看護師)(※5)、看護師、管理栄養士、リハビリスタッフ(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、薬剤師で行なっており、回診終了後には毎回カンファランスを行い、患者さんの傍では言わなかったことなども含めて話し合い、考えを共有するようにしています。
 原因を取り除けば、ほとんどの褥瘡は改善します。実際に褥瘡の状態が改善していけば、気が付いた問題点や対策を本人や介護者に説明して理解していただいてから退院とします。



入院中に褥瘡を治癒させることを目標とされていないのでしょうか

 入院中は、陰圧閉鎖療法(※6)も適宜施行しますが、治癒後に退院すると、介護者が褥瘡の原因の除去について理解が乏しいために、再発しやすいともいえます。退院後に入院中に行っていた褥瘡予防が継続できないからです。 したがって、入院中にはクッションなどを購入していただき、クッションをどこにどのように使用するかを実際に病院でお見せするほか写真を撮ってお渡しして、退院後も引き続き同じ予防を継続していただくわけです。退院後は2~3週間に1回診察して、改善しているか確認します。悪化した場合は新たな原因ができたこともありますが、多くの場合は提案した予防法を行っていないことに起因します。
 また、手術を予定している場合でも、まず考えられる予防と保存的治療を2週間以上行い、褥瘡の経過を観察します。この間に褥瘡が悪化する場合は、その原因が取り除かれていないことの裏付けとなります。そこでもし手術を行ってもおそらく良い結果は得られません。一方で褥瘡が改善している時の手術成績は良好です。したがって褥瘡における手術治療はあくまでも、治癒までの期間の短縮が目的です。保存的治療では治らないが手術なら治るものというのは、ほとんど存在しないと考えています(なお脊損者褥瘡は例外です)。どんどん悪化している褥瘡や原因が取り除かれていないために改善しない褥瘡を手術しても、同じ部位にまた褥瘡ができて手術はうまくいきません。私が褥瘡に興味を持つきっかけとなった第1としてお話した、昔、2回連続してうまくいかなかった手術経験の話は、技術はさておき褥瘡の原因を取り除けていなかったからで、それにより手術部位に褥瘡が再発したのです。



2002年から実施された褥瘡対策未実施減算により貴院でも褥瘡対策チームを開設されたと伺いましたが、褥瘡ドックを立ち上げるきっかけとなった出来事はございますか

 褥瘡対策チームを開設して以来、毎週金曜日の午前中に褥瘡回診を行うようになったのですが、それを継続してきた結果、2002年10月から2008年末までの6年間で1,179名の新患患者、延べ5,800人余の患者さんを診察するという経験をしてきました。その中で色々なことを学びました。

仙骨部の褥瘡に対する植皮
例えば、外科的処置を加えなければ絶対に治らないと思っていた大きなポケット(※7)のある症例も治りました。また、当時、植皮は適応外とされていましたが、仙骨部の20×10㎝大の褥瘡に分層植皮(表皮と真皮の一部を含む植皮)と網状分層植皮(採取した皮膚をメッシュ状に加工して植皮する方法)を行い、3年間再発なく亡くなられた方も経験しました。それから全身麻酔が適応にならない場合は、保存的治療である程度縮小させてから、ベッドサイドでの10分足らずの局麻手術でも治せることも知りました。 このような経験を褥瘡で困っている方々に活かしたいと思ったことが一つのきっかけです。
 また、その頃、92歳女性の褥瘡の患者さんのことで忘れられない経験をしました。それは、1カ月間の入院後の退院時のことで、ご家族(70歳の娘さん)とのお話です。その娘さんは、入院まで3年半の間、毎日お母さんの介護をしてきて本当に疲れ切ってしまい、母と一緒に死ねないものか、とも考えていたそうです。そのような時に、そのお母さんが当院に1カ月間入院することになりました。そして、その退院時に娘さんが、「私にとっては、夏休みをいただけたようで、夜中に起きなくてもよくて朝まで眠れたし、すっかり疲れが取れて生きる意欲も沸いてきました。また明日から母の面倒が見られそうです」と話してくださったのです。その時に私は、老々介護の現実を目の当たりにしました。そうした経験から、褥瘡の患者さんを1カ月程度入院させることは、看護・介護で疲れている方にとってのリフレッシュにもなると考えたことがもう一つのきっかけです。そしてこの1カ月というのは、意味のある期間であったことを後に強く感じました。例えば、とても面倒見の良かったご家族でも、2~3カ月経ってしまうと施設等への入所を検討されるようになるなど、入院前の生活には戻れなくなるケースが多いということもその一つです。



高齢社会が進む中で褥瘡のある方の介護は大変なため、ますます社会問題となっていくと思います、佐瀬先生はそうした中で何が重要になるとお考えでしょうか

 当院の褥瘡対策については少しずつ効果が表れてきたところですが、自分の病院の褥瘡対策レベルを上げるだけでは甚だ不十分であり、近隣地域・医療圏全体の褥瘡予防のレベルの底上げをして減らすことが重要です。このことで印象的な事例がありました。それは、近くの病院から褥瘡ドックで紹介入院になった患者さんがおりました。その患者さんは2カ月の入院で予防法や治療法を立案し褥瘡は改善傾向を見ましたので、それらの内容をレポートとして退院時にお渡し、再転院としました。その転院先の病院では、当院のやり方を他の入院患者さんにも実践していただき、その後その病院での褥瘡発生がほとんどなくなったというお話です。まさにこれが私たちの目指すところです。ですから当院では、地域の医療スタッフのために「どこでもメディカルセミナー(※8)」なども開催しており、私も看護師と一緒に他の医療機関(施設)に出向き、褥瘡の教育に関してのセミナーを行っています。そうしたことも含め、今後も地域の医療従事者同士の連携を大事にし、皆で協力して地域全体の医療や看護の質を向上させていこうという気持ちを持つことが大切だと思っています。また、そのためには自分のレベルを維持しながらも、向上に努めたいと思っています。
 今後、褥瘡の治療方法が革新的に改善するとは思えませんが、予防法や介護方法が格段に楽になる方法や補助方法は出てくるのではないかと期待しております。学会などで色々な話を聞くことや、実際の現場の介護者のお話を聞くことが、それらのヒントになると思っています。



形成外科医の治療技術:専門分野(乳房再建)
第3の専門として挙げられた乳房再建については、今後ライフワークにしていきたいとお考えだそうですね

 乳房再建については、大学時代の先輩が乳房再建を専門にしていたので、助手として手術に入る機会は元来多かったのです。2013年までは自家組織による再建しか保険適応がなく、人工物による再建は自費でしたので、希望される患者さんは多くはありませんでした。その後その上司は、乳房再建の専門クリニックを品川(東京都)で開業されたのですが、月1回当院に来ていただいて、人工物による再建を行っていました。自費で100万円前後の治療費がかかりましたので、年間の希望者は10名弱でした。
  乳がんは当院の野水院長の専門分野で、当院の乳腺外科は県内屈指の乳がん手術数ですので、年々乳房再建の患者さんも増えていて、乳房再建のニーズも高いといえます。特に、2013年7月以降は人工物による乳房再建が保険診療で認められるようになったことが影響しています。ですから今後はライフワークとしたいと思っています。
 人工物では、下垂した乳房を再建することは難しいので、左右の対称性を得るためには、最後に健側の乳房を挙上して若返らせることが必要です。しかしこれは自由診療になりますので希望者のみに行います。乳房縮小・挙上術は米国ではとても多く、留学時代にはたくさん見てきましたが、まさか今、役立つとは思ってもみなかったです。一方、米国人と日本人では傷跡の目立ち具合が全く違うので、米国式がそのまま通じるわけではありません。当院での乳房再建の手術件数は、今はまだ、必ずしも多い経験ではございませんが、今後、ライフワークにしていきたいですし、していかなければいけないと感じています。


 

※頼れるふくしまの医療人では、語り手の人柄を感じてもらうために、話し言葉を使った談話体にしております。


プロフィール
佐瀬 道郎 氏 (さぜ みちお)

役  職 (2016年1月4日現在)
 病院長補佐 兼 形成外科部長

卒業大学
 平成元年 東邦大学医学部卒業

得意分野・専門
 皮膚腫瘍、熱傷、褥瘡、難治性潰瘍

資 格 等
 医学博士
 東邦大学医療センター大森病院客員講師
 日本形成外科学会専門医
 皮膚腫瘍外科指導専門医
 日本熱傷学会専門医
 日本創傷外科学会専門医
 日本褥瘡学会認定師(医師)、評議員
 日本医師会認定産業医
 平成21年度 医師臨床研修指導医養成講習会 受講




公益財団法人 星総合病院

〒963-8501
福島県郡山市向河原町159番1号
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FAX:024-983-5588
URL:公益財団法人 星総合病院ホームページ







◆用語解説◆

※1 褥瘡(床ずれ)

様々な疾患や障害、老衰などのために長時間にわたり寝たきり状態が続くことで、軟部組織の血流低下、不全が起こり、組織が損傷(壊死)して潰瘍となったもの。

※2 皮膚軟部組織

皮膚、皮下組織と、軟部組織(実質臓器と支持組織以外の組織)

※3 褥瘡対策未実施減算

2002年度の診療報酬改定で褥瘡対策を実施していない(厚生労働省による基準要件を全て満たしていない)病院は診療報酬を減額されることになった。その後の流れは、2004年度に「褥瘡患者管理加算」の開始、2006年度に褥瘡対策未実施減算の廃止と「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」の新設。

※4 創傷被覆材

創傷部分を被覆して保護するための医療用材料のこと。記事中では湿潤環境を維持して創傷の治りを促進させる機能を持つ創傷被覆材(ドレッシング材)の意味。

※5 皮膚・排泄ケア認定看護師(2007年度にWOC看護認定看護師から名称変更)

まず、認定看護師は、日本国の看護師免許を取得した看護師が、認定看護師になるための実務研修における基準をクリアして認定看護師教育機関で教育を受け、過程を修了した後に認定審査に合格して登録手続きを行っている看護師で、皮膚・排泄ケア認定看護師は、2010年2月時点で特定されている21分野のうちの一つである。主に、褥瘡などの創傷により生じる問題、ストーマや失禁に伴い生じる排泄の問題等に対して看護を提供する。

※6 陰圧閉鎖療法

難治性潰瘍に適応となる創傷の治りを促進させる治療法(物理療法)の一つで、創傷部分を閉鎖環境として陰圧を掛ける方法。

※7 ポケット

褥瘡周辺の皮下に、その欠損部より広いポケットのような創腔がある状態。褥瘡のポケットには外力性ポケットと壊死組織融解性の2種類ある。

※8 公益財団法人星総合病院どこでもメディカルセミナー

http://www.hoshipital.jp/main1-46.htm
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