医療人材育成支援

未知の分野で

未知の分野で、自分の道を探してみませんか?
先生は内科の中でも特にリウマチという病気などを専門にされていますが、どのような病気なのでしょうか?
 この病気には“免疫” ということが関わっています。
免疫とは? ヒトの身体には免疫という機序(しくみ)が備わっています。免疫は外からのウイルスや細菌などの異物の侵入を「自分とは違うものだ」という認識をして抑え込んだり、排除したりといった防御壁の役目をしています。その働きをする細胞にはさまざまあり、総称して免疫細胞と呼ばれています。自分の身体(自己)を病気などから守る機序、それが免疫の働きです。
遠藤先生
 さまざまな要素によって免疫の働きに変化が起こると、免疫が自己を攻撃する(自己免疫)ということが起こり、それによりいろいろな病気(自己免疫疾患)を発症することがあります。その1つに関節リウマチ*という身体の免疫異常が主体となる炎症性の全身性自己免疫疾患があります。この病気の発症原因は未だ解明されていません。
 私が医師になった今から30年前頃は、この病気は不治の病といわれ有効な治療法はほとんどありませんでした。それがこの十数年で治療薬の開発が進み、治せるようになってきました。
 少し難しい話をしましたが、医学が進歩しているとはいっても、ヒトの身体やそのしくみは複雑で、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。そして、そのために医学を学んで研究者として活躍している、あるいは臨床の場で働きながら研究も行っている医師がたくさんいます。医師の仕事には選択の自由度があり、臨床の場で活躍するだけではなく、研究者として医療に貢献している医師もいるのです。
先生は当時、不治の病といわれるような病気となぜ向き合おうと思ったのでしょうか?
 当時は、ただ自己免疫という特殊な分野があるというだけでしたが、ちょうど利根川進先生が免疫学の分野でノーベル生理学・医学賞を受賞(1987年)するなど、免疫学が病気の発症に関わっていることなど、非常に新しいことがわかってきた時代でした。でも有効な治療法がないということは、当然この分野に進んでも患者さんを完全に治すことはできません。ですから私の親や周りのベテランの先生にまで「なぜそんな道に進むんだ」と言われたこともありました。それだけ未知の分野だったのです。でも私にとっては逆にそれが非常に面白いと思いました。
 それから私は、研究を行いながら臨床の場で患者さんも診てきましたので、治療法がない時代から治療法が出来て実際にどうなったのか、その全てを学ぶことができましたし、研究していたことが実際に病気を治す治療に結びついていくというプロセスを体験できました。未知の分野で、新しい自分の道を切り開いていくということ。それも非常に面白い道だと思います。
「ゴールは先にいくらでもあります」 医療者を目指す中で、医師であれば医師国家試験に合格して医師免許を取得する必要がありますが、決してそれは最終ゴールではなくそこがスタート地点になります。ゴールはその先にいくらでもあるからです。ですから学生時代に自分よりも優秀な人がたくさんいても、自分に何か才能があると思えなくても、そこで勝負がつくわけではないのです。 特に医療にはさまざまな職種がありますし、医療にかかわる道は決して素晴らしい才能を持って生まれてきた人にだけあるものではなく、コツコツと根気よく努力を重ね、チャンスの時にうまくそれを捕まえていくことが可能なのです。また、その先に自分自身のポジションが作れると必ず誰かが評価してくれます。 順風満帆で若いうちに成果をあげた人がその後も成功し続けるわけではありませんので、周囲と比較してあまり先の道を不安視することなく、投げ出さずに向き合っていくことを大事にしてほしいと思います。
留学していたときのボスに言われた言葉 『成功するかどうかということを100%とすると、そのうち70%がインフォメーションとコミュニケーション』いろいろな発想は固定したところから起こっているわけではないので、若いうちは幅広くいろいろな思考を持てるように視野を広くもつことが大事です。
【用語解説】* 関節リウマチ
リウマチとは、いわゆる骨関節(運動器)の腫脹、痛みなどが起こる病気の総称で、関節リウマチは、そのリウマチ性疾患の中で一番代表的な病気です。