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 今回は、明治35年(1902年)に福島私立助産婦看護学校として設立された大原看護専門学校の「第4回大原看祭」を取材しました。

 大原看護専門学校は、創始者である大原一氏(同法人大原綜合病院の開業者)がモットーとしていた「Life.Light.Love」という基本理念のもと、これまで多くの看護師を医療現場に送り出してきました。その3つの『 L 』は現在もしっかりと受け継がれており、学生たちは日夜勉学に励んでいます。
 そうした伝統を守る一方で、新しい取り組みも行われています。その一つが「大原看祭」です。
 大原看祭は、2011年に学生主体のイベントとして始まりました。第4回目の開催となった今回(2014年)も、学生たちの考えや工夫が生かされた内容になっていました。例えば、「看護の知識に基づく展示物」や「妊婦体験コーナー」などがあり、そこでは手描きのイラストや実際に授業で使われている模型等を用いて、医学的な内容であっても一般の方が理解しやすいように、様々な工夫が施されていました。学生たちはこうした準備のために、数ヶ月前から自主的な学習を行っていたそうです。今回の取材から、看護師の仕事には専門的知識の習得に加えて相手に分かりやすく伝えるための配慮が必要だということが分かりました。

 学校長の石橋敏幸先生(大原綜合病院 副院長)によると、そうした「自ら学び、工夫していく態度」を身につけるということも、このイベントの教育的な意義の一つだそうです。また、石橋先生からは次のような話も聞くことができました。「今回の大原看祭のテーマは『つないだ手から、生まれる絆』ですが、絆をつなぐ第一歩は声だよ、という話を学生たちにしました。教育的には、心を育てるには声を掛け合うこと、挨拶をすることが大事で、この声を出すということがチーム医療や医療の安全管理の面でも重要になってきます。素晴らしい看護師になるには、挨拶をはじめとした一人の人間としての振る舞いが大切なのです」。

 来場者たちは学生たちの明るい笑顔と挨拶に迎えられ、「人体クイズ」や「内蔵パズル」などの展示物で、楽しみながら医療に関する知識を深めていたようです。
 


 大原看祭では母性看護学の観点から、月経前症候群(Premenstrual syndrome :以下PMS)(※)や過度なダイエット等の問題を取り上げたコメディタッチの演劇の上演の他、妊婦体験ジャケットや乳児の人形を使った体験コーナーなどが設けられました。母性看護は、次のような目標が掲げられている科目です。
 この科目の目標は,母性の特質と健康な生活及び疾病について理解させ,女性のライフステージ各期における看護に関する知識と技術を習得させるとともに,生命の尊厳に対する畏敬の念に根ざした望ましい母性観を育成し,母性の看護を行うために必要な基礎的な能力と態度を育てることにある。
 (平成22年1月文部科学省 高等学校学習指導要領解説 看護編 第9節 母性看護 第1目標より引用)

 社会的背景の変化による影響もあり、近年は社会における女性の活躍の場が広がる一方で晩婚化や少子化といった傾向が見られます。母性看護は今後益々注目される分野になっていくといわれています。
 今回、そうした女性のライフステージにおいて重要となる各期を演劇や体験という形で紹介していたことは、参加者の皆さんが楽しみながらも真剣に考えることができる貴重な時間になっていたようです。
PMS (Premenstrual syndrome) 月経前症候群
 PMSの症状は精神神経症状、自律神経症状、身体的症状など多岐にわたります。また多くの成人女性がなんらかの症状を経験したことがあるといわれています。
 今回、学生たちによって上演された劇は、PMSの症状が原因でケンカしたカップルが、月経のメカニズム、そしてPMSへの理解を通じて仲直りをする、という内容でした。また、劇では、PMSのケアには本人だけでなく周囲の理解と協力も必要で、そのため広く正しく認知されることが重要であるとの主張がされました。コミカルな部分とスライドを使った解説を交えた内容に、客席からは笑い声と関心が集まっていました。
妊婦体験
 少子化や核家族化が進む現在、学生たちが日常生活で妊婦と身近に接する機会は多くありません。そうした状況の中で学生たちが妊婦への理解を深めるために、妊婦体験ジャケットを用いた疑似体験が大原看護専門学校の授業にも取り入れられています。今回、妊婦体験コーナーで使われた体験ジャケットはその授業で実際に用いられる物で、重量は約1,500gでした(およそ妊娠31週程度の重さ)。体験者は学生の手を借りながらこれを装着し、洗濯物を干す、掃除機をかけるなど日常の動作を行い、妊娠による行動上の苦労や変化を体験していたようです。


編集後記

 今回の大原看祭ではチャリティーバザーも行われ、「地元の方々に貢献したい」という学生たちの思いから、寄付先を福島市内のNPO法人にしたそうです。自ら問題意識を持ち、手を取り合いながらその解決に取り組む学生たちの姿勢が、今後の頼れるチーム医療につながっていくのかもしれません。これからも、「医療人」を目指す学生たちの取り組みを通して、未来の福島の医療について希望を届ける情報を発信していきたいと思います。





◆用語解説◆

※ 月経前症候群(Premenstrual syndrome :PMS)


 月経前、3~10日の高温期(黄体期)の間、続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいいます。
http://www.jsog.or.jp/public/knowledge/gekkei.html
(公益財団法人日本産科婦人科学会より引用)