情報誌「医療人」®

医療機関訪問(注目の取り組み)

40年の歴史を持つ 太田西ノ内病院 運動指導室


 太田西ノ内病院は、昭和56年4月に改称された一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院以前の附属ささはら病院時代(昭和51年)に糖尿病センターを開設、それと同時に同院内に当時では先駆的に運動指導室を設け、 医師や運動指導士を中心とした熱心な運動療法に取り組んできました。日本人に圧倒的に多い2型糖尿病の治療には、食事療法、薬物療法に並び運動療法が効果的とされながらも、医療機関で専門トレーナーによる運動指導が行われている例は極めて少ないのが現状で、その理由には、運動指導では診療報酬は請求できないことなどが関係していることも考えられます。今回は、運動指導室室長の星野武彦氏に運動療法の効果や指導のポイントを中心とした話を伺いました。
運動教室について教えてください
 当運動教室では、生活習慣病(主に糖尿病)の患者さんに対して、4名の健康運動指導士による指導が行われており、年間延べ1万人の利用者がいます。

安全に運動を行うため
   主治医による
メディカルチェック

(運動療法の適応性をチェック)
 運動指導室にて
フィジカルチェック

(個々人の詳細な体力チェック)
<体組織測定、体力測定など>
患者さんに合った
 運動療法を開始

   
運動療法の効果について、どのようにお考えでしょうか?
   

出典 : 太田西ノ内病院 糖尿病センター・運動指導室
"第48回日本糖尿病学会 東北地方会
長期運動継続者の血糖コントロールと体型・体力の推移(第2報)"
から抜粋
 当教室では、参加者の体型・体力をさまざまな角度から評価し数値化することで、指導に役立てています。人の体力は、年齢とともに低下していくため、それを維持するのはたいへんなことです。こうした中で、当教室で運動を続けている60代や70代の方には、糖尿病の安定した血糖コントロール状況や体力・体型面の維持、改善がみられます。例えば、体力面の数値(脚筋力の平均値)をみると、運動開始時よりも10年後の方が上がっているという結果が出ています(※開始時の体力が低いことも影響しています)。これは、継続的な運動が効果的であることを示すデータで、運動療法が有効であることが分かります。(※結果の全てが運動療法だけの効果ではありません)







 「私は、糖尿病を患い、ここの運動教室に通いはじめました。太田西ノ内病院は糖尿病を専門にしている先生が6名もいるので大変心強いです。運動教室の継続年数は約20年で、74歳になった今でもほぼ毎日通っています。指導士の先生方がとても親切で楽しく継続できるので、県外から通っている人もいるんですよ。運動療法の効果は明らかで、糖尿病の血糖コントロールが良好(開始年:HbA1c13.0⇒現在5.6)で体力の衰えも感じません。何よりも、同級生の中ではダントツに元気で、スピード力には自信があります。これからも、元気でいられる限り運動を続けていきます!」
鈴木 新一 氏










   
運動内容を常に工夫されているそうですが?
   
 当院のような医療機関が運営する運動教室のメリットは、専門医や専門指導士による管理のもと、安全を第一に考えた指導が受けられることです。また、ここに来れば、糖尿病や生活習慣病などの同じ病気を抱え、同じ目的を持った仲間がいます。その仲間と楽しく運動できる、あるいは励まし合える時間が「継続への力」になると思います。
 運動は、好き・嫌いもあれば得意・不得意もあります。そこで私たち指導士は、なるべく苦手意識をなくしてもらえるように、また運動内容のマンネリ化を防ぐために、いろいろな工夫をしています(※患者さんにより可能な運動内容は異なります)。




① 継続と効果に対する評価
 教育入院後(退院後)のポイントは、「運動を続けること」です。
 当教室では、退院後2~3ヶ月経過時に、患者さんの運動状況を確認する機会を設けていて、そこでフィジカルチェックも行っています。これにより、運動を継続していた方には、その継続性と効果を評価し、中断しそうな方には再スタートのきっかけを与えることができます。
 

② オーバートレーニングに対する注意
 患者さんの中には、運動のモチベーションが付きすぎてしまい、運動療法の域を超えて頑張り過ぎてしまう方もいます。このような方には運動を少し抑えるための指導も必要です。

「運動をしないと血糖値が上がってしまう…」 「運動をたくさんしないと不安…」
ある種の脅迫的観念にとらわれてしまうケースもあります。
運動量だけにとらわれず運動内容を確認しながら適切な
指導を行います。




③ 患者さんによる気付き 「待つ指導」
 一般的な生活習慣病等の指導では、食事療法と運動療法の同時進行をすすめられる場合が多いと思います。しかし、最初からそれを行うことは難しく、結果として継続が困難になってしまう例も少なくありません。このため、私たちは、まず「運動をしよう、続けよう」というモチベーションさえあれば、そこが治療への入り口でも良いと思っています。もちろん指導する側としては、運動と食事の両方が改善されれば治療効果が上がることは分かっていますが、どちらも一過性なものになってしまったら本来の目的に達することはできないからです。
 私たちがこのように考えるには理由があります。実は、ある程度の期間、運動を継続している患者さんには、ある時「さらに良い状態を目指すには食事が大事なんだ」というように、本人たちによる気付きが生まれることが多いのです。そこに辿りつくまでの期間は人それぞれですが、運動がきっかけとなり食事療法に取り組む機会を作ることもあるのです。

 当教室では、指導士が持っている理論や知識を押し付けるような攻めの姿勢ばかりではなく、時には「患者さん自身が気付くのを待つ姿勢」が大事だと考え、指導を行っています。


④ 退院はゴールではなく新たなスタート
 若い世代の患者さんは、教育入院をすることで入院前までの自身の食事量の多さや活動量の少なさに気付く方が多いです。そうして退院した後は、以前までの生活がリセットされ、食事や運動量を意識した新たな生活がスタートします。当院の患者さんでも、退院後の運動スタイルはさまざまで、引き続き教室を利用される方もいれば、スポーツクラブに通う方、週末を利用してレクリエーションスポーツに挑戦している方などもいます。
 大事なことは、「自分の生活環境に応じて運動を継続すること」です。


今後の展望をお願いします
 運動療法は、その必要性が十分に承知されていながらも、なかなかその広がりが持てないのが現状です。これには医療側の問題として、運動指導では診療報酬が請求できないことが障害になっている場合が多いようです。
 私たちは、近い将来このような問題が解決され、運動指導に携わる仲間が全国に増えることを願っています。

季節ごとにレクリエーションイベントを開催
そしてその暁には、当教室が40年の歴史の中で試行錯誤しながら作り、築き上げてきた「指導法」「有効性を表すデータ」そして「経験値」を示すことで、新規参入される方たちの手助けを行ったり、多くの指導士たちとのディスカッションの場を作ったりしながら、より良い運動指導を考えていきたいと思っています。

 生活習慣病が増加の一途を辿る今、その予防も含め、私たち指導士の活躍の場は広く求められていくと思います。その中で、一人でも多くの患者さんをサポートするための体制を整えながら、さらに良い指導ができるよう尽力していきたいと思っています。



プロフィール
星野 武彦氏(ほしの たけひこ)

役  職: (2014年1月1日現在)

 一般財団法人太田綜合病院附属太田西ノ内病院
 運動指導室 室長

略  歴:

 平成 3年 国士舘大学体育学部体育学科 卒業
    同年 太田綜合病院附属太田西ノ内病院運動指導室
 平成 5年 健康運動指導士 取得
 平成12年 デンマーク ステノ研修センターにて
        2型糖尿病研修 参加
 平成13年 ヘルストレーナー 取得
 平成15年 同院 運動指導室 室長補佐
 平成16年 メンタルヘルストレーナー 取得
 平成20年 地域糖尿病療養指導士 取得

所属学会:
   日本糖尿病学会
   日本肥満学会
   福島糖尿病療養指導士会(理事)など



 一般財団法人太田綜合病院附属
 太田西ノ内病院

〒963-8558
 福島県郡山市西ノ内2丁目5番20号
 TEL:024-925-1188(代表)
 FAX:024-925-7791
 URL:一般財団法人太田綜合病院附属  太田西ノ内病院ホームページ